4. え、レベル0の俺が一夜明けて最強に!?
「......う”っ」
目覚めると同時に、鋭い痛みが身体中に走り、悲鳴をあげる。
身体の無事を確認するため起き上がろうとしたが、大きなスライムでもまとわりついているかのように、体が重い。
抗いがたい倦怠感に襲われ、俺はベッドに体を投げ出した。
なんだ、これ......二日酔いを、最低最悪にしたみたいな......。
二日酔い? その可能性は、十分にある。
パーティをクビになり、ヤケクソになって深酒。そしてそのまま家に帰り、ベッドにダイブした、みたいな。
もし、そうだとしたら、女神様からお許しをいただき、経験値を頂戴したというのは、酔っ払った俺が見た、クビになったショックから逃れるための現実逃避の夢だった、なんてこともあり得る......。
......だとしたら、なかなか救いようがないな。
でも、そっちの方が、よっぽど現実的だ。
一瞬、希死念慮に襲われたが、すぐに自嘲気味に笑って吹き飛ばす。
......だが、これ以上寝てたら鬱になるな。そうと決まれば、仕事を探しに行かないといけない。
俺は、身体の痛みを無視して、気力を振り絞り起き上がった。
......とりあえず、水を飲もう。
そう思い、俺は立ち上がった____
「ん”っ」
「......えっ」
俺の家のぼろっちい床とは明らかに違う感触が足裏に走り、反射的に足をあげる。
そして、恐る恐る視線を落とすと、身体が雷に打たれたかのような衝撃に飛び上がった。
「んぅ......」
俺が踏んだのは、床で寝息を立てているエステル様......。
それも、位置的に、エステル様の......顔、だ......。
「......う、うわああああああああ!!!!!」
「あっ、すみません寝てません仕事します!」
自分が犯した罪に耐えきれず叫ぶと、女神様は飛び起きて、頭がつきそうな勢いでお辞儀をした。
そして、「えっ、あれ、ここどこ......?」と寝ぼけ眼でキョロキョロし、俺を見つけてハッとする。
「あっ、ティント様、起きたんですね......良かった」
「............」
安堵に緩んだ女神様の顔には、確かにうっすらと俺の足の跡がついている......。
「もっ、申し訳ございません!!!!!!」
倦怠感など何処かに吹き飛び、俺はすぐさま土下座した。
少しの沈黙の後、女神様が口を開く。
「あ、全然大丈夫です、地べたで寝るの、慣れてるので。会社で残業の時とか地べたで寝てますし」
「いえ、そうではなく......えっ」
雲の上にいるはずの女神様が、普段地べたで寝てるのか?......いや、それどころじゃない。
普段地べたで寝てようが、女神様は女神様で、俺はそんな女神様の顔を踏んだんだ。
女性の顔を踏むってだけでも謹慎しないといけないのに、相手は女神様......こんな罪深いこと、絶対に許されることではない。
「よくそのまま始業時刻まで寝て、踏んずけられて起こされました。お前床と似てるからついつい踏んじまったとか言われて、へへ、似てますかね?」
「............!?!?!?」
普段から、踏まれてるの......?
......いや、だとして、俺は天界の住民じゃないし、天使とかは基本飛んでるから足の裏とか綺麗なはずだ。言い訳にならない。
「......あっ! こちらこそ申し訳ありませんでした!」
しかし、俺が自決する前に、エステル様が俺に向けて深々と頭を下げた。
「ティント様が気絶されているのに 気づかず経験値を送り続けてしまって」
「あっ、いえ」
「そのっ、決して人に抱きしめられたことがなく、これを一生の思い出にいきていこうなんて思って、長引かせた訳ではないんですよっ!?」
エステル様が、必死の形相で言う。
もちろんそんなわけはない。それよりも、前の発言。
そう、エステル様がここにいる、ということは、経験値の件も夢じゃなかった、ってことだ。
「そっ、それでティント様、ちゃんと経験値の方が送れたか、確認をさせていただきたいのですが」
エステル様が、おずおずと仰られる。
......そうか。俺が気絶したせいで、エステル様はステータスの確認ができなかった。そのせいで帰れなかったから、俺をベッドに運んで、自らは床で寝ていらっしゃったのだ。
「もっ、申し訳ありません、今すぐっ......『ステータス・オープン』」
俺がそう唱えると、右手に『祝福の書』が現れた。
この祝福の書とは、自分の能力値、いわゆる”ステータス”が記されている巻物状の書だ。
俺は紐を解き、書を開き、ステータスを確認した。
ティント 男 ヒューマン
レベル:2198
力 :1210000
耐久力:2417838
持久力:724710
器用さ:966250
素早さ:483210
魔力 :241785
魔法:なし
スキル:耐えるものLvMax
「......は?」
俺は寝ぼけなまこを擦りに擦って、もう一度、ステータスをマジマジと見た。
「......はぁ!?!?!?!?!?」
レベル:2198......!?!?!?!?!?!?
たっ、確か、あの伝説の勇者ベルンハルドのレベルが300ほど。
もちろんレベル四桁なんて、人類史上一人もいなくて、人類がレベル四桁に到達するのは不可能だ、というのが、冒険者の一般論だ。
ステータスの値も、おかしい。こんなもん、ドラゴンや幻獣の比じゃない。なんなら最強の種族、魔族ですら、簡単に倒せてしまうんじゃなかろうか。
俺の役立たずスキル、【耐えるもの】もLvMaxになっているし......どうなってんだ、これ。
......うん、何かの間違いだ。こんな化け物、この世に存在していいはずがない。
「あっ、良かったです」
すると、エステル様が俺のステータスを覗き込み、安堵のため息をついた。
......え、なんだろうそのリアクション。まるで、この馬鹿げたステータスが正しいみたいだ。
「エ、エステル様、その、このステータス、おかしくないでしょうか?」
俺の言葉に、エステル様が戸惑いを見せる。俺は、怪しい呂律で続ける。
「そ、その、今まで得た経験値の百倍って......こ、こんなレベルに、なるはずがない、のでは?」
前所属パーティの団員で最高のレベルが、前衛で魔物にトドメを刺し、一番経験値を得ていたサヴァンの40なんだぞ。
たとえ100倍になったからといって、ただの盾役の俺が、こんな異常なレベルになるわけがない。
「あっ、それはその、違って」
俺がその疑問を伝えると、エステル様はどこか得意げな表情で続けた。
「レベルが高くなれば高くなるほど、レベルアップにかかる経験値が多くなる、という経験値論が、こちらの世界では主流かと思います」
「はっ、はい」
冒険者なら、レベルアップをしていく過程で、誰しもが体験することだ......と言っても、俺は体験したことがないんだけど。
「実はそれ、レベルが上がれば上がるほど、経験値を得にくくなる、というのが、より正確な規則なんです」
「.........?」
一体何が違うんだろうと困っていると、エステル様はさらに得意げな表情になる。
「つまり、レベルアップに必要な経験値は、どんなレベルでも100EXで固定されているんです。ただ、レベル0とレベル100では、同じ魔物を倒しても、同じだけの経験値が入らないので、レベル1になるのとレベル101になるのでは、前者の方が簡単にレベルアップできるってことです」
「............??」
「ティント様は、今の今までレベル0のまま、自分より強い魔物と命をかけて戦闘を続けてきました。その経験は、本来でしたらレベル20を超えるもので、それを100倍にしたらこのレベルになった、というなんです」
「............???」
ズキズキと痛む頭では、イマイチ理解できない。
ともかく、このステータスは、間違いでもなんでもない、ということらしい。
......マジかよ。
俺は、しばらくの間、自分のステータスを見て固まった。しかし、数字は一切変わらない。
遅れて、エステル様が俺に期待の眼差しを送っているのに気がつく......あっ。
「エステル様、これほどの天恵をいただき、心より感謝申し上げます」
俺はすぐさま、エステル様に膝まずいた。
「いっ、いえいえ、そんな、お礼を言ってもらうようなことでは......元は私のミスが原因ですので」
「いえ、女神様のやることにミスなどありません。女神様がそうされたからには、それが正しいんです。俺はそれを受け入れるだけです」
「そっ、そうですか......?」
「はい、もちろんです」
「.......す、すみません。ありがとうございます」
「......い、いえ」
「...............」
「...............」
......えっ、帰らないんだろうか。
ステータスも確認し終わったことだし、エステル様がここにきた目的は、もう達成なされていると思うのだが。
......正直、オーラを放ち続けるエステル様の前では緊張の方に神経が言ってしまうので、一人で冷静に考えたい。
くぅ。
その時、可愛らしい音が、確かにエステル様のお腹から聞こえた。
「.......あっ、ごめんなさい。その昨日のお昼からっ何も食べてないものでっ」
エステル様が、顔を真っ赤にして早口で言う。お昼から何も食べてない?......神様って、もしかして貧乏なのか?
......聞くところによると、女神様はあまり良い生活はしてしてないみたいだ。
でも、流石に人間が作ったしょうもない朝ごはんなど、食べたいとは思わないはずだ。
「......あの、俺が作ったものでよければ、朝ごはん、準備いたしますが」
だからこそ、こう言うことによって、エステル様は「お暇します」と言いやすいに違いな
「あっあっ、ありがとうございます! いただきます!」
「えっあっはいっ」
......マ、マジか。