21. サヴァンVSヌボンチョ。
「......おい」
地面にゴロゴロ転がったせいで、白銀の髪がすっかり土に汚れてしまったアイタナが、ぎろりとサヴァンを睨みつけた。
「テメェ、邪魔すんなよ」
「......ふっ、随分な態度だな、アイタナ。邪魔も何も、苦戦していたようだが?」
サヴァンがフッと笑ってから、俺に一度も見せたことのないような、心配げな表情でアイタナを見る。
「昨日の食事会、調子を崩したと聞いていたが、どうやら本当だったようだな。安静にしておいたほうが良いのではないか?」
「それは完全にサヴァンの言う通りね。さあアイタナ、今から私の部屋に来なさい。あなたと一緒に寝るために、あえてベッドはシングルにしてるんだから」
「......お前、本当に変わったな。最初のころはそんな妹好きではなかった筈だが」
「は!? 私は最初っからアイタナにぞっこんなんですけど!? 中傷はやめてちょうだい!」
「中傷どころか擁護だと思うんだが......」
......なんか、随分と親しげだな。
いや、当たり前か。この三人、同じ名門冒険者育成学院出身だ。
こう言うの見ると、やっぱ俺とは住む世界が違うな、と場違い感を抱き、なんとも居にくくなる。
「......あっ」
後ろから、か細い声が聞こえた。振り返ると、そこには、俺を見て目を丸くしているリア含む、サヴァン団のメンバーがいた。
「ティ、ティント......」
リアが手を一方の腕に当て、顔を引きつらせ下を向いた......ああ、俺と会うの、そんなに嫌か。
「は? なんでこんなとこに雑魚ティントがいるわけ? なに、リアのストーカー? きっも」
「うわ、ティントマジヤバイわー」
続けてレオノールとトリッソが、冷めきった目で俺を見る。
「......それは、私も気になっていたところだ。なぜ貴様のような雑魚が、アイタナたちと一緒にいる。お前と彼女たちでは、格が全く違うはずだが?」
そして、サヴァンが俺に歩み寄り、切れ長の目をナイフのようにして俺を見下ろした。
「まさか貴様、この二人に寄生して多様性の庭に入ろうとしているんじゃないだろうな......」
「......そんなわけ、ないだろ」
頼むから、エステル様の前でそんなこと言わないでくれ、とエステル様の方を見ると、エステル様は下を向き、気配を消して密林に完全に同化していた。
......いや、庇っていただこうなんて思っていなかったけど、うん、そうか。
「おい、テメェ」
すると、俺とサヴァンの間に、アイタナがずいっと割って入った。サヴァンが、「きゅ、急に近づくなっ」と顔を真っ赤にして飛びのく。
そんなサヴァンを、アイタナはギロリと睨みつけた。
「何を勘違いしてんのかしんねぇけど、寄生してんのはオレの方だ」
「......は?」
俺は「アイタナ...さん、いいから」と止めに入る。しかし、今回ばかりは、アイタナは聞いてくれなかった。
「オレはティントの舎弟だ。これ以上アニキにしょうもねぇ事言ったらぶっ飛ばすぞ」
「......アイタナ? お前、何を言っている」
少しの沈黙の後、サヴァンの顔が、みるみる青ざめていく。
「お前が、ティントの舎弟......? ふざけるな! なぜ強者が、弱者に仕える!?」
「あ? だからティントが強ぇんだよ。ていうかティント、お前のパーティだったんだろ。それでティントの強さを見抜けないって、馬鹿だな、お前」
「......私を、揶揄っているのか」
サヴァンが、青くなった唇をワナワナと震わせる。そして、俺に向けて殺意のこもった視線を向けた。
「こいつが強いだと!? こいつはただのレベル0だぞ!? 事実、何度もレベル0であることは確認している!」
「へぇ、それって、ちゃんと祝福の書を見たの?」
ライラが口を挟む。サヴァンは大きく頷いた。
「ああ、そうだ! 祝福の書は神からの授かりもの! 偽装などできない!」
そして、物凄い剣幕で続ける。
「こいつは、レベル0のくせに冒険者を続けるために、私たちの足をひっぱり続けた寄生虫でしかない! こんな奴が多様性の庭に入らないようクビにしたというのに、お前たちが寄生されてしまえば、なんの意味もない!」
「......辞めさせた?」
するとライラが、ピクリと猫耳を揺らす。そして、サヴァンに飛びかかろうとしたアイタナを止め、サヴァンを真紅の瞳で見つめた。
「確かあなた、ティントは自分から辞めたって、セフラン団長に言ってたわよね? セフラン団長は、ティントのこと迎える気満々だったのに」
「え?」
俺は、思わず顔を上げてサヴァンを見る。サヴァンは、ハッと青ざめて、目を泳がせた。
「......言葉の綾だ」
「......ふぅん、言葉の綾、ねぇ」
「......っ」
サヴァンが、息を飲む。
......どうやら、ライラの言っていることは事実らしい。
セフラン団長は、俺を辞めさせるよう、命令なんてしていなかった。つまり、サヴァンが邪魔さえしなければ、俺、多様性の庭に入れてたってことか......?
「あっ、ヌボンチョ......」
すると、ここにきてエステル様が初めて口を開いた。そして、ゆっくりと指を指す。
つられて見ると、ヌボンチョがバタバタと泥を散らして、立ち上がろうとしていた。
「......急所に当てたんだがな」
どこか嬉しそうにも聞こえるサヴァンのつぶやき。サヴァンはレイピアを抜き直すと、アイタナとライラを見た。
「どうやらお前たちはおかしくなっているらしい......下がっていろ。私たちが止めを刺す......それともティント、お前が本当に強いというのなら、貴様が倒すか?」
サヴァンが、にたりと意地の悪い笑みを俺に向ける。俺は、黙りこくって下を向いた。
「ハハハッ、そうだろう。貴様のような雑魚では、ヌボンチョにすら一つのダメージも与えられんだろうしな」
サヴァンは高笑いして、立ち上がったヌボンチョに向き直る。
そして、レイピアによる鮮やかな突きの連撃を、ヌボンチョに食らわせた。
「......は?」
サヴァンは、あんぐりと口を開いた。
あれだけの連撃を食らいながら、ヌボンチョは全くの無傷だったのだ。
ヌボンチョは、ぷっくりと頭を膨らませる。そして、
「ぶふっ」
と、まるでサヴァンをあざ笑うかのように空気を吹き出した。
「......貴様!!」
サヴァンが怒りに顔を真っ赤にして、今度は弱点と言われている足を重点的に突いた。しかし、ヌボンチョは余裕の面持ちだ。
......どう考えてもおかしい。ヌボンチョは、しぶといはしぶといが、決して固い魔物じゃないんだぞ。
一旦退いて様子を見ようと進言しようかとも思ったが、もちろん俺の進言が通るわけがない。
それに、ヌボンチョを「......すごい」とキラキラとした目で見ているエステル様を、何があっても守らないといけない。
なんならこのままサヴァンを戦わせ、その間に逃げるべきか。
「......チッ」
サヴァンは舌打ちをすると、ヌボンチョの頭上高く飛び上がった。
そして、魔法名を唱えると、ヌボンチョの頭めがけて加速する。どうやら頭を貫き、決着をつけるつもりらしい。
しかし、ヌボンチョには頭部を膨らませる攻撃がある。それは愚策じゃないか......あれ。
ヌボンチョは、頭部を膨らませる様子を見せない。
代わりに、人間の手っぽい足を持ち上げ、デコピンの形を作って、サヴァンに向けた。
そして、ピン、と軽く、自分へ突撃してくるサヴァンを弾いた。
「ぐばがああああああああッッッッッッ!?!?!?!?!?」
そして、大粒の雨......いや、大粒の血が、俺たちに降り注いだ。
俺は、上を見る。
身体の節々がひん曲がり、壊れたおもちゃのようになったサヴァンが、くるくると空中で回転していた。
「ぐごばッッッッ!!!!」
そして、まずは顔から地面に落下。そのままくの字型になって倒れ、反動でズボンがずれ落ち、白いお尻が丸出しになったのだった。
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