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11. 火龍、爆誕。


 猿神とは格の違う雄叫びが、逆にオレを現実に戻す。


 こいつは、弱体化どころか、パパから聞いてた話より......圧倒的に、強い。

 こいつ、勇者ベルンハルド相手に、手加減してたのかよ......!?

 

「ライラ! 今すぐ街に帰ってうちの連中を呼んでこい!」


「.........」


 クソ、ライラのやつ、火龍の威嚇に、完全に硬直してしまっている。


 だったら、ライラが正気を取り戻すまで、火龍の注意をオレに引き付けないと行けない。


 オレは地面を蹴って、火龍に向かって飛んだ。

 

 その瞬間、ざわりと『直感』を感じ、反射的に上に跳ねる。

 オレの下ギリギリを通過した火龍の尻尾が、無防備なライラに直撃した。


「ライラ!!」


 ライラはものすごい速度で吹き飛び、壟断に嫌な音を立ててぶつかった。


 ......大丈夫だ、生きてる。だが、今すぐ回復薬を飲ませないとまずい。クソ、受け止めるべきだったのに、なんで避けた。


「それでは、こうしよう」


 しかし、ライラの元に駆けようとした時には、魔族がライラのすぐそばに立っていた。

 魔族は、どこから持ってきたのか、恐怖に慄くゴブリンを手に持ち、ライラの全身を、舐めるように見る。頭に血が上る。


「......おい、ライラに触れるな」


「ああ、触れない。私はな」


 そう言って、魔族がライラの身体にゴブリンを落とす。ゴブリン程度だったら、気絶しているライラにすら傷はつけられない......。


「......っ!?!?」


 一瞬、目の錯覚を疑ったが、この状況でそんなもんを見るわけがねぇ。


 ゴブリンの身体が、ライラの身体の中に、溶け込んでいったのだ。


「今、この女にゴブリンを混ぜた。あと数分もすれば、この女は人でもゴブリンでもない化け物に成り代るだろう。かなり醜悪だろうな」


「......テ、メェ」


 そんな馬鹿げた魔法は聞いたことがない。

 だが、相手は魔族だ。可能性は、十分ある。


 オレはライラの死を想起し、芯から体が底冷えた。


「......お前の目的は、オレだろ。ライラは、関係ない」


「まあ待て、そう焦るな」


 ヒズミは可笑しそうに笑って、ライラの頭を撫でつける。


「火龍を退け、私に指ひとつでも触れることができたら、この女をもとに戻してやろう......どうだ、少しはやる気になったか?」


 そして、ヒズミは崖にもたれかかり、腕を組んだ。オレに対しての殺気は一切感じない。

 どうやら、嘘ではないようだ。


「......上等、だ」 


 ライラの身体にゴブリンが入ってなかったら、あいつを背負って逃げることも考えた。だが、その選択肢が消えたいま、こいつらと戦うしかない。


 魔族と火龍。二匹同時に相手をすんのは無理があった。だが、一対一を二回なら、勝機はある。


「......凍えるアブソリュート・ファイア


 唱えると、くず鉄に蒼の炎が灯る。


 大抵の魔物は、火というものを恐れ怯む。

 しかし、獄炎から生まれたと言われている火龍は違う。爬虫類の目で、じろりと値踏みするようにオレの炎を見、フンと鼻から火を出した。


 火龍といっても、所詮は魔物だ。そうやって油断しとけ。

 俺の【凍える炎アブソリュート・ファイア】によって作り出される炎は、炎でありながら《《氷属性》》を併せ持つ。

 火耐性の高い魔物を、この炎で何匹も屠ってきた、お前もそうなる。


 ......まずは、前足を潰す。


 オレはくず鉄を振りかぶり、火龍の前足に食らわせた。くず鉄では火龍の鱗に小傷をつける程度。だが、火龍は戸惑いの声をあげた。


 『直感』を感じ、火龍の右引っ掻きをバク転で飛んで避ける。その回転を利用して、火龍の下顎にくず鉄を食らわせると、火龍が確かに喉から悲鳴を漏らした。


 ......オレの炎は、火龍にも通用する。


 オレは着地と同時に地面を蹴って、もう一度、火龍の前足に、くず鉄を振り下ろした____


「もういい」


 しかし、オレの攻撃が当たる前に、火龍の巨体が、軽々と吹っ飛んだ。


「なんだ、その魔法は」


 頭から尻尾まで、四十メートルはある火龍を手のひらで《《押して》》吹き飛ばした魔族が、苛立たしげにオレを見据えた。


「お前の父親の炎は、もう少し芸があったぞ......まだ未完成の魔法を私に披露するとは、なんたる無礼......いや、無知か」


 魔族が、深々とため息をつく。


「仕方がない。もう終わりにしよう」


「......チッ」


 ああそうかよ。だったらご希望通り、終わりにしてやる。


 オレは魔力を焚べて、炎を昂ぶらせる。そして、魔族の脳天に、くず鉄を食らわせた。


「ほら、やはりしょうもない。あやつの炎だったら、ただじゃすまない......はぁ、正直、ちょっと期待してたんだぞ」


 魔族は、オレのくず鉄を片手で受け止め、轟々と蒼の炎に燃えながら、平然と立っている。


 火龍のやつを吹き飛ばすくらいだから、受け止められることは覚悟してた。でも、ノーダメージかよ......クソ。


 ふわり、と身体が浮く。魔族のやつが、くず鉄ごとオレを持ち上げたんだ。

 

 そして、『危険』の直感とともに、オレは地面に叩きつけられた。


「ぐはっ!?!?」


 ヒズミは、何度も何度もオレを叩きつける。全身を襲う衝撃と浮遊感に気分がぐるぐる回る。口の中に入る土を吐き出すと、今度は鉄の味がした。


 ......くず鉄を離せば、逃げられる。

 しかし、離せば、オレの炎は消え、くず鉄は奪われる。そうなったら、勝ち目はない。

 スキル『自動回復』がある限り、怪我は大して怖くない。ここは、何があっても話さない......ッッッ。


 その時、景色が真っ青になって、内臓がお腹側に偏ってるのを感じた。


 くず鉄は......離していない。くず鉄ごと、放り投げられたんだ。

 

 オレはジタバタあがいて、空中で体勢を整える。そして、地面に着地すると同時に、後転して衝撃を逃がした。


「お前、名前はなんという」


 オレが地面を蹴ってヒズミに反撃しようとした時には、ヒズミはオレの目の前で、オレを見下ろしていた。

 

 ヒズミのガラス玉のような瞳に映るオレは、ただのそこらへんの女みたいな、最低の顔をしていた。


「......アイ、タナ」


 ......おい、何答えてんだ、オレ。


「アイタナ、命乞いしろ」


 ヒズミが、淡々とした口調で、こういった。


「面白い命乞いができたら、お前たちを逃がしてやる。頼むから、私を少しくらい楽しませてくれ。それが、お前たちが生まれた唯一の意味なんだぞ」


 命乞い? オレは剣士だぞ。そんなもん、できるわけねぇ。


『第一に、自分の命を優先しろ。死闘などもってのほかだ......だが、万が一死闘になった際、命乞いだけは死んでもするな。剣士でなくなった瞬間、お前は価値のない存在になる』


 ......パパ、わかってる。命乞いなんてしない。パパはこいつに命乞いして、自分を失った。同じように、なっちゃいけない。


『剣士でなくなった瞬間、お前は価値のない存在になる』


『剣士でなくなった瞬間、お前は価値のない存在になる』


『剣士でなくなった瞬間、お前は価値のない存在になる』


『アイタナ......ありがとう、私を救ってくれて』


「......っ」


 なんでこんな時に、ライラの笑顔が、浮かぶ。


 オレは、必死に力を入れ離さなかったくず鉄を離し、地面に両手をつけた。


「......たっ、頼むからっ、オレたちをっ」


 その時、魔族の視線が、オレから逸れた。


 ......音、だ。


 魔族の見る崖の方から、ザクザクと何かが削られている音が聞こえる。

 魔物でも、生み出しやがったのか......いや、奴の表情を見るに、そうじゃない。


 音が、ものすごいスピードでオレたちに迫る。そして、ひときわ大きな音とともに、断崖にぽっかりと穴が空いた。


「ペッペッペッ......ふぅ、たっ、助かった......おえっ!?」


 崖から出てきたのは、オレンジ頭の男......ティントだった。


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