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10. 勇者の娘たちvs魔族。


 ......ここが、いいか。


 オレが選んだのは、ゴブリンの森の中腹にある、四方を崖に囲まれた凹地だ。

 人気のないここなら、邪魔も入らず、こちらに迫るバケモンと戦うことができる。


  危険の『直感』はどんどん明確に強くなっていく。

 『直感』を感じながら、戦闘することにはもう慣れてはいるが、ここまでのレベルのものとなると、話は別だ。


 もし、バケモンと対面した時、強者を感じる『直感』で、ティントレベルの電流が走ったら、大きな隙になる。


 オレは少し迷ってから、『祝福の書』を取り出し、『直感』のスキルをオフにした。


「ほう、エルフか。それなりに楽しめそうだ」


 その時、後ろから女の声が聞こえた。オレは即座にくず鉄の柄を掴む。


「っっらあ”っ!!」


 そして、横回転斬りを後方に繰り出した。


「......ふん、随分ととろいな」


 声の主は、オレのくず鉄に乗って、眉を潜めた。


「っ」


 魔族......!?


 俺は一瞬凍りついて、すぐさま【凍える炎アブソリュート・ファイア】をくず鉄につけようとした。

 しかし、その頃には、魔族はトンッと軽い調子で飛んで、オレのくず鉄から降りていた。


 オレはバックステップを踏んで、くず鉄を構え直した。


 なんでゴブリンの森に、魔族がいる......待て、奴が持っている剣、あれは......。


「パパの、剣」


 実物を目の当たりにしたことはないが、レプリカ品がいくらでも出回ってるから、知っている。


 そして、その剣には、レプリカでは出せない、多種多様な魔物を斬り伏せてきた年輪があった。


 ......五十年前、パパは王族の魔界侵略の命を受けて、勇者の剣を装備し魔界に向かった。


 そして、勇者の剣と、片腕を失って、命からがら帰ってきた。


 敵を目の前に、悠長なことをしてる場合じゃないのはわかってる。でも、聞いてしまった。


「お前、パパ......ベルンハルドと、戦った魔族、ヒズミか」


「......おお!」


 その少女は、勇者の剣を握る拳で、ポンと手を叩いた。


「そういえば、そんな名前だったな、あの男」


「......ッ」


 パパの名前を忘れてた、だと? 

 ......ふざけるな。パパはお前と戦ってから一度も、お前のことを忘れなかった。毎夜、苦しげにお前の名前を呼び、うなされていたんだぞ。


「お前が、そのベルンハルドとやらの娘で間違いないな?」


「......それが、どうした」


「いや何、貴様に会いにきたんだよ」


 魔族はそういうと、ニヤリと笑って手を広げた。


「父親を散々いじめてしまって悪かったな。お詫びに、一手くれてやる」


「テメェ!!!」


 怒りに任せ、隙だらけの魔族の脳天に鉄くずを食らわせてやろうと思った。

 しかし、パパとの訓練の日々が、怒りによって突き動かされることを許さない。


 ......そうだ、馬鹿な魔族が勝手に隙を作ったんだ、まずは『直感』をオンにしたほうがいい。オレは『祝福の書』を取り出しスキルをオンにした。


「......ふん、参ったな。期待外れだ」


 すると魔族が、複雑な色彩を放つ瞳をオレに向ける。


「父親を弄んだ私に対して、冷静さを失わない。私を恐れているのか?」


「......っ」


 恐れている? 違う、だけど、パパが言ったんだ。『魔族とは、オレが許可するまで戦うな』って......。


 パパの声が脳内で鳴り響く。くず鉄を握る手の力が、フッと抜けた。


 ......クソ、何をしている。オレはパパの約束を破ってまで、ここにきたんだぞ。それなのに、結局パパの言うことを聞いて、逃げるつもりなのか!?


「やれやれ、お前がモタモタしているから、愚か者が来てしまったではないか」


「......あ?」


 その時、オレに人型の影が落ちた。影の尻尾が地面で揺れているのに気がつき、反射的に舌打ちする。

 

 クソ、この馬鹿が近づいてるのにも気づかないくらい......びびっちまってんのか、オレ。


 影の主、ライラは、着地と同時に大型のナイフ、『火龍の牙』で魔族に斬りかかる。魔族は余裕で躱し、一つ嚙み殺しあくびをした。


 ライラはバックステップでオレのところまでやってくると、背中の火龍の盾を構え、こちらを見た。


「アイタナ! 大丈夫!?」


「......テメェ、帰れっつったろ!!」


「あんな深刻な顔した妹をほっとけるわけないでしょ!......ていうか、なんでこんなとこに魔族がいるわけ!?」


 ライラがヒズミから目を離さず、オレに聞いてくる。オレは無言で答えた。


 ニタリ。


 ヒズミが、何かいいことでもを思いついたように、笑った。


「ほう、この女からも、微かに奴の血を感じるな......お前よりも薄いが、怯えながらもしっかり仕掛けてくる分、この女の方が幾分かマシのようだな」


「......何言ってるの、え、ていうか、あの剣......」


「......ライラ、今すぐ逃げろ。あいつは、パパの腕を奪った魔族だ」


 ライラが、「あの、クソ親父の......!?」と、隙ができるほど動揺する。

 仕方ねぇ。オレたちにとって、パパは絶対的な存在なんだ。


「......だったら、アイタナにとっては宿敵ってわけね。なおさら逃げられないわ。絶対に、アイタナを守りきってみせる」


「......クックックッ。そのアイタナが、ビクビク震えて逃げる気満々のようだがな」


 ヒズミが、可笑しそうオレを嘲笑する。カッと血がのぼるのを感じて、オレは無理やり握力を取り戻した。


 ......ライラの言う通りだ。こいつは、オレの宿敵。オレは、こいつを殺すために生まれてきた。


 ......冷静に考えろ。生まれてきた意味を示す、絶好のチャンスだ。


 人間界の、しかもリギアからこんな近い場所なら、相当の力が魔族に働いているはず。まず間違いなく、魔族は弱体化している。


 パパだって、この場にいたら、許可を出しているはずだ。


「.....ライラ、もう一度言う。逃げろ」


「断るわ。さぁ、行くわよ」


 ライラの言葉を受けて、オレは地面を蹴って前に出た。ピタリ、とライラがオレに動きを合わせる。


 悔しいが、こいつはオレの左手より上手に、オレに合わせる。

 こんだけでかい盾を持ってるくせに、オレの剣筋を感じ、絶妙に邪魔にならない。オレの特殊な炎への耐性も、装備品で揃えてやがる。


 ......こいつのスピードに、大振りじゃダメだ。必要最低限の動きで、仕留める。


 オレはくず鉄を軽く引いて、そのまま体重の乗った突きを繰り出した。


「......っ」


 ヒズミは、退屈そうな表情を残して、オレたちの前からフッと消えた。


「ほう、火龍の鱗から作られているのか......ふっ、百魔の王と呼ばれた魔物が、哀れな姿だな」


 背後からする声に、振り向く。


 ヒズミは、その小さな両手に、火龍の盾を持っていたのだ。


「えっはっ!? そんな......!?!?」 


 ライラの狼狽が、背中越しに痛いほど伝わる。


 無理もない。ライラは皆を守る戦士として、戦闘中、どんな攻撃を受けても、盾を離すことはなかった。

 ライラがそのために、血の滲むような努力をどれだけしてきたか、オレは知っている。

 

 それを、あの魔族は、奪ったことすら気づかせなかった......その気になれば、オレたちの命を奪うことだって、できたはずだ。


 ......速いなんて、次元じゃねぇ。ワープが使えんのか? でも、セフランのワープは、もう少し予兆がある。


 魔族は、しげしげと火龍の盾を見た。そして、ニタリと悪意に満ち満ちた笑みを浮かべる。


「ちょっとした余興だ。楽しめ」

 

 そして、両手で盾を持つと、まるで紙かのように、火龍の盾を、いとも簡単に引き裂いて見せた。


「......嘘」


 火龍の盾は、鍛治ギルドがSランクの耐久性を保証した防具で、一時期パパだって使ってた。それをそんなにあっさりと、こいつ、本当に弱体化......あ? 


「......なに、あれ」


 ライラが、ポツンと呟く。

 

 破壊、じゃない。むしろ、逆、だ。

 

 裂けた盾から、鱗に覆われた真っ赤な尻尾が、にゅるりと這い出る。人間一人簡単に引き裂けそうな爪を携えた四本の足が、大地を踏みしめる。爬虫類の目が、オレたちを捉え、ぎょろりと殺意に剥かれた。

 

 火龍の盾から、火龍が、《《生まれた》》......!?


「ぐるぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!」


 完全に成った火龍が、天高く叫んだ。



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