スポーツ?なにそれ美味しいの?
ある日の昼休み、そいつは突然言い放った。
「あ、もうすぐ春の球技大会だね」
それは、その言葉は、俺が一番恐れていた言葉で。俺が目を背けていた事実で。
なぜこんなに回りくどい語りをしているのかというと、それはまだ現実を受け止めきれていないからであって。でも、そろそろ現実を受け止める時がきたようで。
その「現実」とは…
「俺は、運動が、嫌いだぁー!」
否、正確には、「できない」である。
この桜花学園。文武両道を理念としているため、定期的にスポーツ大会が行われるのだが。俺はスポーツ弱者であるからして、どうしてもこういうイベントの時に恥をかいてしまう。
中学時代はそのせいで同級生に、
「ボールきたら空いてるところにパスしてくれるだけでいいから」
と言われた。サッカーの授業である。
しかし、もう俺も高校生。理想の学校生活を送るために、あまり恥はかきたくない。こんな時に教えてもらえる友達が、今の俺にはいるはずだ。そう、ヒカルと恭平と雄大が…!
球技大会は来週の月曜日なのだが、今は金曜日。土日に練習する時間はあるはずだ。
まずはいつもお世話になっている雄大にお問合せしてみよう。
「ごめん!俺部活が…」
まあまあ、雄大は陸上部期待のエース。土日まで部活があるのは仕方ないだろう。次は恭平にお問合せしてみるかな。
「ごめんね、僕部活が…」
………。無言で携帯を取り出し、ヒカルに連絡する。
「エンゼルフレンチ部活はあるのか?」
『おうどうした急に喧嘩売ってきて。あるわ』
「うわぁぁー!!」
『どうしたんだよ…』
真面目に心配された。
本格的にどうしよう。まさに四面楚歌の状態と言えるこの状況、どうにか打破できる方法はないものか。
そんなことを考えていると、右から市原さんに声をかけられた。
「どうしたの?そんなデー○ン閣下みたいな顔して」
「俺そんな顔だった!?」
「うん、今にも誰かを蝋人形にしそうな顔をしてたよ」
おそらく、悲しみと悔しさが融合して顔が歪んでしまった影響だろう。
「いや、実はさ…」
事の詳細を市原さんに話す。すると、市原さんはニヤリと笑って、
「そんなあなたに、教えてくれる人を紹介してあげよう…」
と言い、カバンからスマホを取り出して俺の顔の前に突きつけてくる。画面には、金色のメダルを首にかけた、ポニーテールの女の子が写っていた。
「この子は…誰?」
「ふふん。この子は私の妹、夜恵でーす!」
「妹…ってことは!」
「そう、私の師匠なんです」
「おお…!」
市原さんはこの前、妹に話し方を教わったと言っていた。こんなコミュ力お化けに市原さんを成長させることができた(市原さんの地力は知らないが)妹さんなら、きっとそのコーチング力は確かなものだろう。
それにしても、妹さんはスポーツができたのか。
「妹さんは何の競技の選手なの?」
「あ、この時はバスケだね。色々な部活に助っ人に入ってて」
「へぇ〜」
どうやらすごい人のようだ。自分とはきっと対極にいる人なのだろう。
「じゃあ土曜日に近所の公園集合ね!」
「了解!」
よーし、球技大会はきっと人並みにはやるぞ!
今回短めですね。申し訳ない!
そのかわり次回は新キャラ、夜恵ちゃんの登場です。いえ〜い。
果たしてどんな人物なのか、乞うご期待!