天才と凡人
入学式、部活動紹介を終えてひと段落。今日から本格的な学校生活が始まる。その証拠に、朝のHRでは授業の内容の伝達を行う為に教科係が設置され、ついでにクラス委員長も決められた。
因みにクラス委員長には、雄大と相生さんが当たり前のように就任した。
昼休みの時間も5分延長されて、本格的な交流が始まるのは今日からだろう。
来るべき昼休みに備えて、理想の学校生活モンスターの俺としては、所謂親友と呼ばれるポジションを確保しておきたい。
だからといって、急に他の人に話しかけるのも、親友との出会いとも違うだろう。
こんな状況の中、親友を作る良い機会がある。
それは、今日行われるプチ席替えだ。
クラス委員長や教科係になるような実行力のあるひとを分散させて、クラスの規律を保つという目的の元、担任の原田先生の独断で行われる小規模の席替えだ。
この席替えでは、先生のチョイスでその人たちをクラス各地に移動させるのだ。
そのため、雄大と相生さんは移動することになる。
そう、ここがチャンスなのだ。
二人がいなくなった後に俺の前に座る二人のうち男子と親友になるのだ。
親友というものはそんなに打算的に作るものではないので、気が合わない場合には無理に親友になる必要はない。ドント、ハフ、トゥというやつだ。
厳密に言うと、雄大がどこかの席に移動してしまうので、あらたなともだちを作らなければならないというだけで、チャンスというのは後付けなのだが。
なんだか悲しい話ではあるが、これが現実。誰とでも友達になれる奴というものはいるものだ。
一限目の初めの方に原田先生の指示通り席替えを行い、そこからは原田先生の担当する英語の授業が始まる。そのため、HR後のこの十分休みがこの席最後の休みとなる。
「陽介…寂しくなるな…」
「何シリアス感出してんの。確かに寂しくはなるけど、雄大は友達も多いから大丈夫でしょ。そっちに遊びに行かせてもらうよ」
「ま、それもそうだな!」
「何急に元気になってんの」
「じゃあ俺はどういう風に話せばいいんだよ」
最後の雑談だが、別に卒業式をしているわけでもないので特段悲しくはない。話し相手にはいつでもなれるし、雄大が暇なときには俺がいつでもそっちに行けばいい。もっとも、雄大にそんな暇など存在しないだろうが。
相生さんもどうやら市原さんと雑談を楽しんでいるようだった。
「残念だなぁ、優梨ちゃんと離れ離れになるの」
「あはは…私も残念だよ…」
何だか市原さんの返事がぎこちない。気になってそちらをふと見ると、相生さんの一ミリも笑っていない顔が目に入った。
完全に自分の予測ではあるが、相生さんは市原さんのことをもしかしたら最初のグラウンド1の話に市原さんが雄大に誘われたときからマークしていたのかもしれない…
市原さんはとてもかわいい。大きい目に長いまつげ、高めの鼻にきれいな髪。おまけに必殺の笑顔まで兼ね備えている完璧美少女といえるだろう。(見た目を詳細に知っている理由はふせておく)先日一緒に帰る約束を取り付けることができたのは、ほとんどの生徒が部活に入っていたという背景があったとしても奇跡に近いのだ。
もしかしたら相生さんは、市原さんに雄大がとられるのを警戒していたのかもしれない…雄大はなぜ気づかないんだ。鈍感なのか?こいつ。
「もしかしてさ、雄大って鈍感なの?」
「いや、自分で言うのもなんだけど結構勘は鋭い方だと思うぜ。ESPカードとか4回に一回は当てれるし」
「何枚中?」
「2枚」
「お、おお…」
どうやら鈍感なようだ。
…キーンコーンカーンコーン…
話の中断を余儀なくされた。雄大とは席が遠くなってしまう…
が、これは親友を作るチャンスと捉えて前向きに捉えることにした。
「有坂さんは最後列の中心へ、相生さんは廊下側の…」
先生の指示で教科係、クラス委員の計七名が分散する。俺たちの近くに来るのは…英語係の人と普通の生徒のようだ。
しばらく待っていると、優しそうな見た目をした男子生徒と、落ち着いた雰囲気の女子生徒がやってきた。
よし、久しぶりに勇気を出して話しかけてみるか。こういうときは雄大リスペクトの挨拶で行こう。
「よろしく、俺は伊口陽介。陽介って呼んでよ。君は?」
「あ、僕は渡井恭平。僕も恭平でいいよ」
なるほど、恭平か…
今回は授業時間なので、話す時間はあまりない。せっかくの英語の授業なので、係としての活躍ぶりを見ておこう。
「I think Koji…」
早速驚くべきことがあった。初回の授業で英語係が長文を音読しているのだが、ヤバいくらいに発音が綺麗だ。多分、手放しで聞かされたらリスニングテストかと勘違いしてしまうだろう。俺のドント、ハフ、トゥとは発音が違う。
授業が終わった後、早速恭平に聞いてみた。
「恭平ってさ、何でそんなに発音がいいの?」
「僕は実はハーフなんだよね。親が日本語を昔は喋れなくって、英語を話すしか会話する方法がなかったんだ」
ハーフだったのか。たしかに、よく見れば外国人寄りの顔をしていて、イケメンに見える。うらやま。
恭平がすごいのは英語だけではなかった。
続く国語の時間、中学校の復習をするために文法の例題を解いていたときも、恭平は誰よりも早く問題を解き終えていた。割と難しい問題だったにもかかわらずだ。
「なんか…すごくないっすか?恭平さん?」
「はは、けど僕は運動が苦手でさ。勉強ができるだけで、将来は何の役にも立たないよ」
俺も勉強しかできない系男子なんだけど…
「じゃあさ、将来の夢は?」
「外交官かな」
「ガッツリ勉強が役立つじゃねぇか」
こいつヤヴァイ。ヤバいの最上級。
「ところでさ、恭平は何か趣味ってある?」
「んん…やっぱりテニスかな?部活もテニスだし、結構得意なんだよね」
「ふざけるな運動できてんじゃねぇか」
ヤヴァス。ヤバいの天元突破級。
あれか?世の中にはこんな無茶苦茶なハイスペック野郎もいるって訳か?
その日の帰り、市原さんと話していた。
「いやさ、恭平がすごいとにかくヤバい奴でさ…」
ヤバいエピソードを伝える。
「あ、渡井君とは同じ中学だったんだよね、私。中学から凄くて、とにかくすっごくモテてたもの」
「やっぱり?」
「あの人、全部を世界基準で考えてるから、運動神経悪い(世界的に考えて)、ちょっと数学が苦手(世界規模で)、化学が苦手って感じなの」
「それはヤヴァデスだね…」
「?」
しまった。つい頭の中で考えてることを言ってしまった…
「じゃあさ、みんなで勉強して渡井君に追いつこう作戦。どう?」
「というと?」
なんだか面白そうな作戦だ。詳細を聞いてみよう。
「私たちは帰宅部だから時間が少し余るでしょ?その間に図書館で勉強するの。どうかな?」
「ああ…いいね!よし、今日の放課後から作戦実行しよう!」
「うんうん、じゃあ、この後駅に集合ね。時間はラインで伝えるから」
「オッケー」
そのあと自宅に帰ると、しばらくしてからスマホにラインが来た。
[この後五時に集合!]
準備は済ませておいたので、早速出発…しようとした所で気づいてしまった。
「え?二人で?」
次回、最終回!
もちろんまだまだ続きます。