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理想の学校生活を送りたい男子高校生の話  作者: 厨二びょ魚
第0章・入学と理想の学校生活
4/13

方向音痴

 時はサクサク流れ、早くも下校時刻。

 相生さんの脅しでいけなくなったグラウンド1に思いを馳せつつ自宅へ向かう。未だかつてこんなに虚しい下校があっただろうか。

 歩きなれていない道なので、分かれ道で止まってしまう。どちらが正しい道なのか、わからなくなってしまったのだ。

 いったんその場に立ち止まってスマホで道を確認しようとするが、突然の電話にさえぎられてしまう。画面を見ると、「母」の文字が見られたので電話に出る。

 ―ピッ!!

「もしもし、母さん?」

「ああ、ゆうくん?学校どうだったの?」

「大丈夫だって。()は元気だよ」

 高校に通うために三月終わりごろから一人暮らしを始めたので、母からはしょっちゅう電話がくる。

「友達できた?喧嘩しなかった?あと……」

「もう高校生だしさ、そんな心配しなくても大丈夫だって」

 母は少し、いや、大分過保護なので困っている。話を早く切り上げるためにも、無理矢理締めに入る。

「もう切るよ、じゃあね〜」

 ―ピッ!

 半ば強引に電話を切る。少し悪い気もするが、このまま話すと一時間ぐらい話されるので仕方ない。

 スマホをポケットにしまって、いったんその場に立ち止まって伸びをしていると、後ろから声が聞こえてきた。


「僕、なんて一人称だったっけ?伊口くん」


 振り返ってみると声の主は、隣の席の市原さんだった。帰り道が同じなのだろうか。

 それにしても、少し訊かれたくないことを訊かれてしまった。「僕」と「俺」なんて些細な違いによく気付けるものだ。

「いや…」

 理由を言うべきか言うまいか。少し恥ずかしい話になってしまうからあまり言いたくないのだが。

「いや…何?」

 まあ、別に周囲に言われなければいいだけの話であって、別に一人にいうぐらいどうってことないだろう。

「は、春休みの間読んでた指南書に書いてあったんだよ。僕っていう男は舐められるって…」

 指南書というのはもちろん高校デビューの指南書である。理想の高校生活を送るために、春休みの間に読み込んできたのだ。

 そんなことを進んで話したいと思う学生がどこにいるというのだろうか。

「フ、フフッ」

 ほらな。予想通り笑われたよ。こんなに意気込んで高校に通っている学生なんていないだろうし。

「そんなに笑わないでよ…」

「いや、やってることが私と同じすぎてね、思わず笑っちゃった」

 同じ…?何だか引っかかる物言いだ。彼女みたいなきれいな人は、俺みたいな猛勉強するまでもなく友達いっぱいだろう。

「同じ?」

「うん。私、中学の頃は友達いなかったから」

「え?」

「うん。人と話すのが苦手で、話しかけられても話題を広げることができなかったの」

「そうなんだ…」

 意外だった。俺みたいなトーク力弱者とまともに会話できるくらいだから、てっきりそういう人なのだと思っていた。

「春休みの間妹に鍛えてもらったりして、今では自信たっぷりだけどね!」

 そう言って胸に手を当ててどや顔をする。かわいい。

 今ので気が付いたけど、こんな顔面ハイスペック女子と一緒に帰れるなんて僕は凄く成長したんじゃなかろうか。

 そう思うとなんだか照れくさくて、つい顔を逸らしてしまう。

「そ、そろそろ歩こうか。こんな所で立ち止まっても迷惑かもしれないし」

「いやごめん、私こっちなんだ」

 自分が分かれ道に立っていたのを今思い出した。となると、完全に間違った選択肢を選んでしまったな?恥ずかしいからってこんなこと言うんじゃなかった。

「あ、そうなんだ…じゃあ、ここでお別れかな?」

「あ、ちょっとまって、せっかくだし…」

 そういうと、彼女はカバンの中からスマホを取り出して、何やら操作した後俺の方に画面を向けてきた。

「ラインでも交換しよっか。ほら、初めて会話が上手く行った人だし…」

 らいんね、羅位ンね、Rいnね…ライン?聞きなれない言葉すぎて体が拒否反応を起こしたぞ?ラインってなんだ?ああ、あの無料通話アプリね。へ~、ライン…

 マジか。

 そうと決まれば話は早い。歴戦の武将のごとき速さでスマホを懐から抜き取り、ラインを起動する…ってあれ?

「ごめん、ラインはいってない…」

「マジか」

 マジだ。機械音痴の両親はスマホ自体を持っていないし、兄も友達登録をする前に海外へ留学にいった。え?友達の話には触れないのかって?…察せ。

 ただ、ネットの友達ならたくさんいるから…

「ディスコードなら入れてるよ」

「やってると思ったの?」

「思ってない」

 健全な女子学生は入れる機会がないだろう。

「じゃあ…連絡先を交換しよっか」

「そうだね、次に会うときは入れておくよ…」

「うん。ぜひそうしてね。じゃあ、そろそろ私は行くね」

「うん。じゃあまた」

 お互いに背を向けて、T字路を通る。


 しばらく歩いたら、重大な問題を忘れていることに気が付いた。

「道、市原さんと同じ方向だったなぁ…」



 この後帰るのに二時間かかった。




深夜テンションなう。高評価おせなう。押してくれないと悲しいなう。

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