幼馴染が欲しい(切実)
その後、自己紹介で誰が喋っていたかは記憶にない。ただ一つ記憶に残っているのは、自分が大滑りしたという事実だけ。燃え尽きて真っ白な灰になった僕に、流石の雄大も話しかけることはできない。
もう先生の話も自己紹介も終わり、二時限目に向けての準備時間となっている。しかし、立ち直ることのできない僕はうなだれるだけだった。
(ああ…詰んだよ…カムバック!理想の学校生活!)
そんな僕の耳に不意に優しい声が飛び込んでくる。
「だ、大丈夫?伊口君…だっけ?自己紹介がそんなにこたえたかな?」
この声は…誰だ?
顔をあげてみると、目の前にはショートカットでまつ毛の長い、可愛い女の子の顔があった。
「うわぁ!」
ついびっくりして、椅子から落ちそうになるが慌ててバランスをとる。
「そんなにびっくりしなくてもいいじゃない、傷つくよ〜?私」
よくよく顔を見てみると、隣の席の人だった。確か、名前は…
「樋口一葉さん…だっけ?」
「そんなに大層な名前じゃないよ、ていうか全然違うし。自己紹介で言ったでしょ?市原優梨だよー」
ダメだ…頭に全然内容が入ってこない…
「ああ…覚えたよ。よろしく、梅原さん」
「そんな格ゲーマーみたいな名前じゃないし。市原優梨ね」
「ああ…市原さんね。よろしく。そして俺の姿を見るのはこれで最後だろう。永遠におやすみ」
「ちょいちょい」
再び灰になろうとした俺を制するかのように手を伸ばしてくる。
「やめてくれ、もう…俺は生きていけないから…」
「一回滑っただけなのに?」
聞き捨てならない。跳ね起きて必死で反論する。
「その一回が命取りなんだよ!大体あのハードルを乗り越えられるやつとかいるの?」
「元気になったじゃん、ほら。そっちの方がいいよ?」
「うっ…」
答えに詰まっていると、ちょうど通りかかった雄大が話に乗っかってくる。
「はは、もう元気出せって。みんな忘れてるさ」
「…そうするよ。いつまでもいじけててもなにも生み出せないしね」
「なんで有坂くんがいうと立ち直りが早いのさ…」
「まあまあ。それより皆さん、提案があるんだけど…」
雄大が改まって話し出す。
「今日の午後は授業ないだろ?だからさ、ちょっと遊びに行かないか?市原も、どう?」
キタコレ。圧倒的リア充イベント、放課後遊び。しかも可愛い女の子もいるなら断る理由が逆にない。
「いくよ。絶対に行くよ、俺」
つい言葉に力が入ってしまった。
「おお…やる気じゃん…市原は?」
「わ、私もいこうかな。用事もないし」
「よし、じゃあ…」
話がまとまりかけてきた時に、不意に言葉が差し込まれる。
「あ、私も行っていいかな?雄大くん、優梨ちゃん、バレー君」
気になる呼び方をされたのはさておいて。言葉の主は、見事な自己紹介を見せた女子、相生瑞樹だった。
「おっ、全然オッケー」
「ありがとう!」
笑顔が眩しい。けど、俺はその笑顔が雄大にしか向けられていないことに気づいたからな。
中学生の頃はバリバリの陰キャだったので、恋愛については死ぬほど疎い。しかし、そんな俺でも気づくほどにその態度はわかりやすかった。
「ところで、どこ行くの?」
市原さんが切り出す。
「ああ、それなんだけどさ…」
雄大はスマホを取り出して、マップを俺たちに見せてきた。
「じゃーん、グラウンド1〜」
「あ、隣街に新しくできたやつ?賛成だよ雄大くん!」
グラウンド1というのは所謂、複合型アミューズメントパークというやつで、カラオケやらフットサルやらボウリングやらが一緒になって立っている施設だ。
正直、一回も行ったことがないのでいってみたいところではあるのだが…
「じゃあ、この四人で行くってことでいい?」
そう言って笑顔を向けてくる相生さんの目が怖いのだ。まるで来るなと言っているような。
自慢じゃないが、俺は豆腐メンタルなのだ。だから、こんな目を向けられると…
「お、俺は…いいかな、やっぱり」
断ることしかできなかった。
「え〜、さっきあんなにやる気だったじゃん!」
雄大に非難の目を向けられるが、相生さんの向ける目に比べればだいぶマシだ。
「あ、わ、私も…ちょっと抜けさせて欲しいかなって…」
おずおずと片手をあげて申し訳なさそうな顔をする市原さん。彼女も、相生さんの眼力に負けたのだろう。
「マジかよ!二人とも抜けちまったらまた瑞樹と二人じゃん!」
「まあまあ、また今度みんなで行けばいいでしょ?仕方ないよ」
雄大が残念そうに声を上げるのを相生さんが慰めている。元はと言えば彼女が悪いのだが?
それはそうとして、どうやら二人は既に知り合いのようである。
「二人とも、中学同じだったりしたの?」
素朴な俺の疑問に、雄大が答える。
「ああ。おんなじ中学で陸上一緒にやってたんだよ。だから何かと縁があるというか…」
「小学校も同じなんだよね、雄大君とは」
相生さんが補足を入れてくれる。小学校から同じなのだったら、名前を呼び合っているのにも納得だ。
「へー。じゃあ、また同じクラスでしかも隣の席って、何か不思議な力が働いてるのかもね」
「そうなのかもしれないなぁ…」
自分には、雄大と相生さんのような所謂幼馴染という存在がいないため、ラノベ主人公みたいな幼馴染(しかも確実に恋心を持っている)を持っている雄大が羨ましい。というか殴り倒したい。
キーンコーンカーンコーン…
不意に、聞き慣れた学校の鐘が鳴る。どうやら話しすぎたみたいだ。先程の話の輪が中断され、各々自分の席で前に向き直る。
これから何度も聞くことになるであろう原田先生の声を聞きながら、上手くいった(一部うまく行かなかったが)学校生活の初日に達成感を感じていた。
(きっと、これからも穏やかに時間が過ぎていくんだろうな)
そんな、おっさんみたいなことを考えながら。
モチベグングンまる。
評価とかしてくれてもええんやで?