追跡者組合
不安そうな表情で帰り道を歩く女性。
その後ろの電柱の影には、怪しい男が……。
次の瞬間、男はマイクを握りしめ、カメラに向かって
『皆様、ストーカーをしていますか?最近、可愛いあの子をストーカーしたい。マジでカッコいいイケメンを見かけたのに、家まで場所が分からない、連絡先も入手できてない!そんな悩みに我々、”追跡者組合”……改め、”ストーカーチーム”は』
ベギイィィッ
「いきなりなんのCMを流してんだーーー!!」
開始早々から飛ばしてくるじゃないか。
動画にあるCMでいきなり、ストーカーをしていますか?なんて流れたらクレーム物である。
工藤友はディスプレイをぶち叩いて破壊し、このCMが流れるきっかけ。つまりはこのPCの使用者である2名の名を叫ぶ。
「瀬戸ーーー!!松代ーーー!!仕事サボるなぁーー!どこに行ったーー!」
「あの2人ならたぶん、そのCMに釣られて入会しに行きましたよ」
「アホかあいつ等!!」
アホだからだ。
◇ ◇
追跡者組合とは。
ストーカーしたいけど、そんな時間もお金もない。あるいは、相手がどんな人なのか分からないでいるとか。あるいは犯罪になってしまうと考えてできない。という悩みを持つ人達に代わって、ストーカーを引き受ける組織である。
事前相談として、ストーカーをしたい対象。その理由。ストーカーをした後のこと。対象をストーカーするその期間。……会員登録制ではあるが、利用者には安全な場所と地位を約束したストーカーを行う組織である。
「春真高校2年生、江越さんをストーキングしたいです」
なーんで学校に縁もないゲームクリエイターが、対象者の通う高校と女子生徒の名前を知っているんですか?
「彼女はいい胸の発達をしてますよ。ぐへへへへ……」
……このお客様はひとまず、置いといて。
追跡者組合はいくらストーカー行為をやるからといって、すぐに行いますという事はしない。
先にお客様を説得するようなお話をする。ここまでは無料である。
そこまでしてストーカーをしたい。嫌がらせをしたい。付き纏いたいか。第三者でもあり、それを代わって行う自分のような相手だ。言葉を口から出させ、それで得られる物を気付かさせる。
「私には、そこまでの気持ちはないです……」
気持ちの問題って時もある。
一度でも踏み込んだらきっと、それは止まらない。エスカレートしていく事だろう。追跡者組合が間に入って、そーなる人を踏み止まらせる。
追跡者組合の、本当の表の顔は人間からストーカーを生み出さない事であった。ストーカーなんて金も掛かる、時間も掛かる、犯罪にも繋がる。そして、そーいうストーカーは社会に溶け込んでいるような人が多い。
言い方悪いが、時間があって金もありそうな引きこもりにはそもそも人との出会いが少なく、体力も気力も社会人にも劣り、ストーカーとしての適正はない。このような犯罪者になる事は極めて稀である。社会人を犯罪者の道へ行かせないため、この犯罪組織がある。
「だって、彼女は僕の事が好きなはずだ!!愛に形は必要ない!!」
ストーカーしたい彼女の写真及び、ブログなどにも顔を覗かせる現役のストーカー。
彼女のためならば、周囲に嫌がらせをする。彼女の目をこちらに向けようとあの手この手と必死になる。一つ間違えれば、一緒に死んで永遠に結ばれようとするかもしれない。
ストーカーなど止めない。そーいう意思を感じ取れたら、ここをオススメする理由を伝える。
「我々は警察とも深い繋がりがあります。会員登録するだけで、刑期は3分の1。保釈金も半額、罰金も減額!……ちなみに、この事は秘密ですよ……」
「そ、そんなに!?そんな特典が!!」
犯罪という悪を誘うように、悪を裁く力を軽減することまで吹聴。とはいえ、毎月会費を払うので意味がないような気がしなくもない。
ストーカーをサポートするための配慮はもちろん。捕まらずに、付き纏うために人員を増やしての交代制を行ったり。時にはストーカー対象が使っているモノも回収したり、家の中に盗聴器やカメラを仕込んだりと、より高度なストーカー環境を提供する。
会員になれば
「別の方がストーキングしている子を、ご紹介。さらには交換などもします」
ストーカーを交換する制度も導入。もうストーカーとはなんやねん……。
「会員登録します」
「では、住所と連絡先。電話番号とメールの両方のご記入をお願いします」
「はい」
「会員様にはまず事前説明がありますので、来週の日曜日の20:00にこの場所で」
「分かりました」
◇ ◇
そして、来週の日曜日、20:00。
「いやーー、大量大量!」
とんだ思い付きから始まった事ではあったが、人を怖がらせたり、騙したりしようとする人ほど。甘い罠にかかりやすい。もっと成功しやすいことや、もっと旨味のある話に食いつく。一度成功したものが、もう一度成功したいと思ったりする、あれかもしれない。
犯罪者にも通じるところがある。ストーカーという罪の軽減や、新たなストーカー手段を生み出す何かで心を刺激され、ホイホイと自ら個人情報を曝け出す。
「テメェ等ーーー!!このクソ警察共ーー、ヤクザとグルとかズルいぞーーー!!」
「正々堂々、検挙しやがれ!汚ぇーぞ!!正義をなんだと思ってる!」
「ストーカーをしてた連中が何を言ってるんだ?別にヤクザと警察が吊るんでも良いだろ?捕まえてんのは会員だけだ」
追跡者組合は、一部の警察が贔屓にしているヤクザも絡んで、ストーカー達を一斉検挙。中にはマジのストーカーもいるのでヨシってのもある。
警察側の代表として来ている、婦警の鯉川友紀は。ヤクザ側の代表で来ている、女用心棒の山寺沙耶にお礼を言う。高校時代、2人は先輩と後輩の関係であった。
「ストーカー予備軍も一緒に牢屋にぶち込んでおくから、協力ありがとねー。沙耶ちゃん達ー!」
「鯉川。ヤクザ側の僕が言うのはなんだけど。相手が犯罪者及びその予備軍だとしても、正義側の警察がだまし討ちなんて良くないぞ」
「だって……だって……。犯罪者を沢山検挙しないと、ボーナスが減っちゃう”特殊課”なんだもん!じゃ、またテキトーな詐欺行為の手口を教えてね!こっちで対策とか言って、周りに金を使わせたり、馬鹿共を大量に検挙するからさ!」
「ハッキリ言うが、お前達が一番の犯罪者だと思うぜ。職権乱用って奴だっけ」




