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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
幕間~デイジー・ポインター~
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お金で買えないもの?

「皆サ~ン! お久しぶりデ~ス!!」


 朝食を取り終わりしばらくすると、地下からハカセたちが帰って来た。言われた通りにお茶と適当なお茶請けをお出しして私は席に座った。デイジーさんは千晴さんたちに気さくに話しかけているが、皆どこか居心地が悪そうだ。


「あの、ポインターさんとはどういった……?」


 「デイジーでいいデスよ!」と笑う彼女に愛想笑いを返しつつ、隣でコーヒーを啜っていたハカセにこっそりと聞いてみる。


「有り体に言えばパトロンだよ。私が開発、発見した悪魔関連の技術を提供する代わりに金銭的な援助を受けてる。革新的な技術でも無名の怪しげな女が持ってくより、名のある会社が持ってく方が色々な通りもいいからな」


 生活費とか、地下の施設なんかに使われるお金がどこから出ているのかと思っていたけれど、この人の会社からだったのか。私が「はー」と間の抜けた返事をすると、千晴さんの腹筋を触っていたデイジーさんがこちらを向いた。


「そうデース! ワタシの会社がおっきくなったのはハカセのせいデース!」


 お陰と言いたかったのだろうか。


「ハカセは天才デス! 魔結晶から晶油という安心アンド安全なエネルギーを取り出す技術! あれのお陰でワタシの会社はウハウハデース!! そのせいで聖歌隊、ベリーベリーストロングになれマシタ!!」

「聖歌隊? そう言えばポインターって……」


 そうだ、ポインター社。聖歌隊の大本の経営会社名が確かそんな名前だったような気がする。無名だった会社が一気に技術力を発揮して国の中枢を担うようになったサクセスストーリーとしてよく話題になるけれど、その背景にまさかハカセがいたなんて。


「ハカセはワタシの救世主! いえ、ニホンの救世主!! 世界の救世主デース!!」

「こんな感じで頭はカラだが行動力はピカイチだったんでな。日本の大企業様じゃこうはいかないからな」


 ハカセは歯を見せて笑うとまたコーヒーを啜った。デイジーさんは更に二言三言ハカセに薄っぺらい愛の言葉を投げかけると、仰々しく足を動かして私たちから離れ、またこちらを向いた。


「それではミナサン!」

「お、帰るのか気をつけてな」

「違いマス! ハカセはヘイスティなとこありマス!」

「こっちとしてはさっき渡したモンでさっさと仕事してもらいたいんでね」

「もう少しくらい、いいデショウ!?」


 デイジーさんがぶぅと頬を膨らませると、ハカセはめんどくさそうに手を払うと、「一応大事なパトロンだ、お前ら相手しろ」と言い残して研究室行きのエレベーターへ去って行ってしまった。私たちは、こほんと咳ばらいをしたデイジーさんにもう少し付き合わなければならないらしい。


「ミナサン! 私はお金持ちデース!!」

「雑な自慢が始まったな」

「いつものことだね……」

「そこで、ミナサンに質問したいデース!!」

「あはは~☆ また始まった~☆」

「……自慢高慢馬鹿のうち」


 皆が皆好き勝手に口をはさむけど、デイジーさんは気にする様子もなく続けた。


「お金持ちのワタシでも買えないもの! それをお聞きしたいデース!!」


 いったいなんの時間が始まったのだろうか。悪意の無いワクワクキラキラした目でこちらを見てくるデイジーさんを無下にするのもなんだか可哀そうで(年上だよなこの人)、真面目に考えてみる。

 千晴さんたちも顔を見合わせて、やれやれといった表情を浮かべたけれど、一応考えているようだ。なかなか思いつかないでいると、千晴さんがまず手を挙げ、デイジーさんが元気よく指さした。というか挙手制だったの?


「それはあれだろ、筋肉!!」

「ん~……今は動かなくても筋肉の付く電磁マシンありマスし、腕利きのトレーナーも雇えマース!! 間接的に筋肉を買ってる、ということではないでショウか!!」


 千晴さんは「電磁マシンの筋肉なんて邪道だ」と吐き捨てるように言って手を降ろした。続けて手を挙げたのは王狼さん。もうこの挙手スタイルで行くんですね。


「これしかない、愛だね」

「ム~、大好きな借金まみれの人より、ちょっと好きなお金持ちを選ぶ人は多い気がしマス! 見方を買えれば愛をお金で買った形になると思いマース!」


 王狼さんは「愛は深いね」と首を振りながら手を降ろした。その後も蛙田さんが「家族」、花牙爪さんが「友達」と続けたけれど、すべて却下されてしまった。ぶーぶー不満を言っている四人とデイジーさんの視線が私に集まる。

 デイジーさんが笑顔で「アナタはどうですか!?」と聞いてくると、皆「やっちまえ!」「我々の仇を取ってくれ!」口々に喚いた。もう趣旨が分からなくなってきた。


「えっと……デイジーさんの手料理とかどうでしょうか……?」

「ワタシの料理?」

「お金がいくらあっても、デイジーさんが作った料理は他の誰にも用意できないというか……デイジーさんに作る気がなければ食べられないのでお金では買えないかなって……」

「オー……確かに、デス!! アナタ、とっても賢いデスね!!」


 思い付きで言ったわりには好感触。デイジーさんはにっこり皆もやいのやいの喜んでいる。なんだか照れくさくなって「でへへ」と頭をかいた。我ながら気持ちの悪い笑みを浮かべていると、デイジーさんがずいっと顔を近づけてきた。


「アナタが真理矢ちゃん、デスね? ハカセから聞きました」

「あ、はい。名乗るのが遅れてしまってすみません……」

「ノープロブレム! 全然オッケーデ~ス!!」


 明るく笑い飛ばすデイジーさんは私の顔をまじまじと眺める。

 不意に、何の前触れもなく。

 デイジーさんの顔から笑みが消えた。


「アナタなら、ハカセの計画を……」


 呟かれた声が上手く聞き取れず私は問い直したけれど、デイジーさんは「なんでもないデース!!」と、元の調子に戻って笑い、何を言ったのか聞きだすことはできなかった。


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