今日も嘆く
「よし、こんな感じでどうでしょう」
花牙爪さんが綺麗に切り分けてくれた石を、裏庭の花畑へと運んだ。一枚の綺麗な石板には、毬音さんの名が刻まれていた。千晴さんはその墓石の奥に千晴さんの剣を地面に突き立て、手を合わせた。
1分ほど、私たちは黙って手を合わせていた。
「……ありがとな、皆」
千晴さんの顔は、当然だけど元気がないように見えた。でも、目はまっすぐと前を向いていて、その笑顔はしっかりとした心からの笑みだった。
「いいのか千晴」
「あ? なにが」
「お前さんらがやかましくてこんなとこじゃ眠れないかもしれないぞ」
ハカセからかうような調子で言うと、千晴さんは笑った。
「いいさ! ちょっとは賑やかなほうが姉さんも退屈しなくてすむ」
「そうだな、大丈夫さ。これだけ出来の悪い妹でも愛してくれる素晴らしい姉君だ」
「ああ、本当にいい姉さんだった。でも出来うんぬんはお前に言われると腹立つな」
「あはは~☆ 家族は家族と一緒に居た方がいいよ~☆」
「出たな、きらりのたまにまともなこと言うモード」
「……血は水よりも濃い」
「意味わからんけど励ましてくれてんだよな、ありがとな」
千晴さんは皆の肩をばしばしと叩き、それから私に笑顔を向けた。
「お前もありがとな真理矢」
「私は何も……」
「いいや、お前のお陰で私は救われた。本当にありがとう」
いつになく真面目に千晴さんが言うものだから、私はなんだか照れくさくて仕方がなかった。それでも私は熱い頬のまま、まっすぐに千晴さんを見た。千晴さんは小さく微笑むと、私に向けて手を差し出した。
私も同じように手を伸ばし、その手を握ろうとした。その瞬間、千晴さんは後ろ向きにバッターンと倒れた。急にリクライニングを全開にしたみたいにバッターンと。そればかりか白目をむいて泡まで吹いている。
「あば、あばばばば……」
「でぇえ!! どうしたんですかあ!!」
突然の事に素っ頓狂な声を挙げる私の周りで、皆が次々に倒れていく。
「なにこれ! 何が起きてるの!!」
「短時間であんだけお前さんの血肉を摂取したんだ、限界が来て当然だな……ふーむ、これから先は力を優先すべきか持続力を優先すべきか……」
「いま分析とかいいですから! どうするんですかこれ!!」
「どうするも何も運ぶしかないだろ。私は分析の準備をするから地下まで頼む」
「え、私一人でですか?」
私が質問するよりも早く、ハカセはぴゅーっと効果音でも鳴りそうな勢いで、家の中へと消えていった。
「ちょっとぉ!! 手伝ってくださいよおお!!!」
泡吹き倒れる四人の真ん中で、私は嘆いた。




