表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
プロローグ
9/207

聖女ゴブリン爆誕①



 私はゴブリンになった。


 骨ばった緑色の体に禿げた頭。

 醜く伸びた耳と鼻。

 いやらしく弧を描く口元。

 そこから見える汚く尖ったキバ。


 どこに出しても恥ずかしくない、ゴブゴブしいゴブリンだ。 

 なんでこんな乙女心がスレイヤーされる見た目になったのかって?


 そんなのこっちが聞きたい。



     ◆



「……ぎょえええ!?」


 私は奇妙な悲鳴をあげて水鏡をひっくり返した。器に入っていた聖水が床にぶちまけられたけど、そんなの構ってる余裕はなかった。水鏡を覗き込んだらゴブリンと目が合ったんです。そりゃ驚くでしょう。

 私に叩き落とされた銀の器が、床の上で回る金属と石が擦れ合う。ぐわんぐわんと響き渡る不快な音が収まった頃、私はスマホを取り出し自分自身の姿を確認し、また驚いてスマホを放り投げてしまった。


 そこに映っていたのは紛れもないゴブリン。


「な、なんですかコレ! ってこの声も何!?」


 聖堂を包んでいた静寂は私のしゃがれた叫び声で破られた。老婆を通り越して化け物じみたしゃがれ声。それなのに、間違いなく自分の喉から発せられているので、自分の声だと分かる。


 なにこれすごく嫌だ。


 全く状況が飲み込めない。私は今日聖女になりに来たはずだ。筆記も実技もギリギリだけど合格して、ようやく憧れの聖女になれると思ったのに。人々の心を救う聖女になりに来たのに、なんでゴブリンになってんの。現代にゴブリンって浮き具合がすごいんですけど。


「あ、悪魔憑き……』


 誰かのその一言で、静寂の質が変わった。驚きと理解不能からくる静けさから、恐怖で引きつった静けさに変貌した。

 悪魔憑き、文字通り悪魔に憑かれた人間のことをそう呼ぶ。悪魔憑きは凶暴になるという精神的な変調だけでなく、身体的にも悪魔に近くなるのが特徴だ。身体的には今の私はガッツリ悪魔憑きだ。


「ちょっと待ってください、私は悪魔憑きじゃないです!」

「その見た目、確実に悪魔だろう」

「いえ、あのー。ゴブリンですし? 悪魔と言うよりモンスター寄り……ってことにならないですかね?」

「どちらにしろ危険だ」

「まあそうなりますよね、ゴブリンですもんね」

「は、はやく聖歌隊に連絡を!」

「ちょ、ちょっと……!」

「被害が出る前に討伐依頼をかけろ!」

「ま、待ってええ!!」


 私が泣きながら駆け出すと、皆悲鳴をあげて逃げ出した。泣き喚きながら追いかけるゴブリンと、逃げる群衆が広い聖堂内で追いかけっこ。ぐるぐるゴブゴブ大運動会の開催である。意味が分からないのである。

 大きな聖堂を何回も周り、口の中に鉄の味がしてきた頃、聖堂の大きな扉が開かれた。それに気がついた瞬間、体が何かに包まれ自由がきかなくなり、顔面から床に倒れ込んだ。「ぶぎゃ」と醜い悲鳴が私の口から漏れる。


「うぅ……」


 ずきずきと痛む顔を持ち上げると、白いローブを身に纏った数人が私を見下ろしていた。ああ、間違いない。悪魔憑きを狩る『聖歌隊』だ。私の体を拘束しているのは聖歌隊が使う対悪魔憑き用の拘束具。寝袋みたいに出ている顔の部分しか動かせない。


「どうもー、聖歌隊のおでましですよ~」

「はぁはぁ…お早い到着で」


 一番背の低い白ローブが、妙に軽いノリで神父様に話しかける。神父様があんなにぜいぜい息を切らしているの初めて見た。私と同じくらい息を切らしている。

 待ってよ、見た目ゴブリンになっても私は人間並みの体力なの? いいとこ一つもないじゃない。ゴブリンの体力がどれくらいなのかなんて知らないけどさ!


「こっからはあたしらに任せて、さっさと逃げな」

「そう、後は我々聖歌隊が皆様の安全を確保いたします」

「あはは~☆ 聖堂ってキレ~、撮っとこ~!」

「……李下に冠を正さず」


 なんだかキャラの濃い四人だなあとぼんやり見上げていたら、そのうちの一人が私を肩に担いだ。え、待ってホントに待って。このまま私死ぬの? 急に現実感が出てきて、全身から脂汗が噴き出る。


「ひいいいい! 命だけはああああ!!」


 私は白い芋虫のように体をうねらせ命乞いしたが、その願いは聞き入られず、そのまま荷物のように聖堂から持ち出された。

 ウオオンと叫びながら命乞いを続けるが、聖堂の前に停めてあったバンに放り込まれ、私の叫びをかき消すようにエンジンが吹かされると、あっという間に聖堂から連れていかれてしまった。



     ◆



「まったく恐ろしい事だ」

「ええ、まさか聖女候補者が悪魔憑きとは――」


 聖堂の扉が再び勢いよく開かれ、その場にいた人々は肩を跳ねさせ振り返った。


「失礼! 我々は聖歌隊です! ご安心下さい!」

「ああ、よかった。ご苦労様です」

「悪魔憑きが出たとの知らせを受けましたが、どちらに!?」

「それでしたら他の聖歌隊の方が連れていって下さりました」

「他の? 近場に居たのは我々だけでしたが……」

「え…じゃああの人たちは……?」


 その場にいた全員が、一様に首を傾げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ