三本の根
「それで具体的にどうする!」
御鬼上さんの言葉に毬音さんが答える。
「皆さんにやってもらう事は同じ、まずはさっきと同じ様に根を切り離して。いまのままでも私の中に魂を移せるけれど、魂が強大な魔素に引っ張られてしまうかもしれない。根を断って魔素の供給を断って!」
毬音さんの指示に頷くと同時に、大樹の悪魔が回復を終えてこちらを向いた。
「あいつはどうするまり姉ぇ」
「一人で抑える、と言いたいところだけど……一緒に戦ってくれる? ちぃちゃん」
「もちろんだ!」
武器を構える御鬼上さんと毬音さんに、赤いカプセルを手渡す。今見たところ六本程度のストックがあった。もしも1度の強化で根を上手く切りきれなかった時に備えて、王狼さんたちに付いて行った方がよさそうだ。
「私たちは根を切りに行きましょう! カプセルが足りなくなったら言ってください!!」
「何をコソコソ話している!」
不規則な軌道で迫って来た大樹の悪魔の攻撃を、御鬼上さんと毬音さんが受け止める。「気を付けて!」私はそれだけ言い残して、王狼さんたちと一緒に根を切りに走った。例のごとく、枝葉や細かい根が上と下から絶えず私たちを襲う。
根っこは血管の様に根はあちこちに伸びているけど、大本は三本だ。その三本を断てば大樹の悪魔も弱まるはずだ。
「……一足お先」
花牙爪さんはカプセルを口に含み、ごくりと飲み込み走る私たちの前に出た。二足で走っていた花牙爪さんは次第に四足形態へと変わった。さっきのように体が大きくなることはなく、いつもの花牙爪さんの戦闘形態だったけど、その体色は黒く染まり、悪魔の力が凝縮されているようだった。
「……快刀乱麻を断つ」
花牙爪さんは黒く染まった牙を根に突き立て頭を持ち上げ、周囲の岩盤ごと根を引きずり出した。ビルほどもある巨大な根が宙に浮き、そこへ黒く伸びた爪が二度三度振るわれる。巨大な根は野菜でも切るかのようにあっさりと輪切りにされてしまった。
「あはは~☆ すごぉ~い☆」
「あれ落ちてきますよねえ!?」
「離れないで!」
切断された根が降り注ぐ中、私たちは次の根を目指した。ぴょんぴょんと私の隣を不規則に飛んでいた蛙田さんがカプセルを飲み込み、大きく地を蹴って前方の根に飛びついた。蛙田さんの体色は、目に痛いほどの黄色と闇のような黒色が混じりあったものに変貌していた。
「あはは~☆ 表面にかけるだけじゃ効果薄いみたいだから~☆ 直接注いであげるね~☆」
蛙田さんが口を開くと毒々しい色をした牙が二本生えているのが見えた。大昔の巨大な虎のようなその牙を木の根に突き刺した。一瞬の間を開けて、牙が刺さった地点から根が紫に染め上げられる。のたうつように地表に現れた根は、瞬く間に煙を上げて枯れてしまった。
「最後の一本だ!」
「は、はい!」
当然、大樹も今まで以上に抵抗してくるが、強化された花牙爪さんの爪や牙に切り落とされ、蛙田さんの毒で地中からの攻撃もままならないようだった。王狼さんもカプセルを口にして、その姿を変える。
めきめきと音を立てて牙や耳が生え、狼の尾のように頭髪が伸びる。その色は満月に照らされた夜空のように、深く濃い藍色だった。王狼さんは獣の瞳を手にした銃に向け、
「皆、準備はいいな!」
『まかせてなの!』
『了解よ!』
『んみぃ……』
三人の声と同時に三つに分かれていた銃身が青白く光りはじめた。光が薄れると同時にどすんと何かが地面に落ちる音と共に、大砲のような者が私たちの前に現れた。砲身はまるで大口を開けた狼の様で、狼の前足のように二つの脚が大砲の口を持ち上げていた。
「RuggitodellaLupe!!」
轟音と共に大地が揺れ、前方の根に巨大な風穴があいた。王狼さんは続けて撃ちまくり、薄紙にパンチで穴を開けるかのように次々に大穴が開いていく。砲撃音が止む直前に、耳をつんざく悲鳴のような軋みと共に、大樹がまるで生き物のようにうねった。
「……得手に帆を揚げる」
「あはは~☆ いいね~☆」
「手を休めるな、幹へ攻撃するぞ! 私たちはとりあえず大丈夫だ、キミはアイツのところへ!」
王狼さんの指示に頷き、皆にもう1つづつカプセルを渡した。三人は短いお礼の言葉を残して、大樹へと駆けて行った。大樹の幹は芋虫がいくつも集まっているかのような、身の毛がよだつうねりと共に、背筋が凍りそうなほど不気味な軋みをあげている。
御鬼上さんたちは大丈夫だろうか。私は切れる息を整えてから、二人が戦っているであろう場所まで戻ろうと、走りすぎでじんじんと痺れる足を動かした。




