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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~常夜之桜~ 編
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抜け殻

 御鬼上さんは震える手に力を込めて刀を握ると、大樹の悪魔に刀を向けた。


「馬鹿な事いうんじゃねえ!!」

「噓をついてどうする? 」

「まり姉ぇがそんなことするはずがねえ!!」

「どこまで馬鹿なんだお前は? もともとお前に入れた悪魔の仕業に決まっているだろう。まあそいつに操られて村の奴らを殺したのは毬音だがな」


 こいつが用意した悪魔のせいで、毬音さんは村の人たちを殺してしまった。そもそもこいつが妙な事をしなければ御鬼上さんたちはこんなことにはならなかったんだ。私は奥歯を噛み締めた。


「まあ、俺が用意した悪魔は時間稼ぎのための粗悪品だ。その上無理に捉えたから弱っていたからな、ほどなくバカ女の中から消えた。そして目を覚ましたお前は自分が殺したと勘違いしたという訳だ」


 大樹の悪魔は鼻で笑うと、また顔を歪めた。


「分かったか? お前たち馬鹿姉妹は俺の計画の邪魔をしたんだ……おかげで十数年も無駄にした。だがまあこうして目的は達成できた! 今となってはお前たち姉妹にすら感謝の念すら抱くよ!!」


 歪んだ顔に狂った笑みが浮かび、裏返った笑い声が続く。


「じゃあ……あの姉さんの姿をした奴はなんなんだ!」

「なんだもなにも、お前の姉だ。中身は空っぽのお人形だがな。お前が居なくなった後俺が回収した。そいつは燼鬼の器としての儀式だけは終えていた。つまりある種の悪魔憑きになっていたから死にきれなかった。だから護衛として利用させてもらったというわけだ」


 不意に、私たちの横を誰かが横切った。それは毬音だった。ふらふらとした足取りで大樹の悪魔に近づき、異形の外道を見上げた。


「……これは、どういう事なの? ちぃちゃんは、ちぃちゃんはどこなの」

「悪いな毬音。お前は俺の目的のために利用されただけだ。それにもうやめろ、貴様はただの器だ。魂を入れるためだけのな。あの馬鹿女の残滓を寄せ集めただけの薄気味悪い人形だ」

「……それは、どういう」


 大樹の魔物が指を弾くと、毬音は糸の切れた操り人形のようにがくんと地面に倒れ伏した。その様を間近で見ていた御鬼上さんの全身が波打つように見えた。


「都度、悪魔を入れ替えて護衛として使っていたが、どんな悪魔を入れても馬鹿妹の名を呼んでいたな……哀れな女だ。だがまあ、いい道具ではあったな。それにこの器量だ、色々と“使わせて”もらったよ……ほれそこ、見てみろ。腹に傷があるだろう?」


 倒れた毬音の腹部には、確かにいくつもの傷痕が見えた。ほとんどが古傷の様だったが、新しい物もいくつかあった。


「それだがなあ、何でついていると思う?」


 男は――悪魔は今まで一番顔を歪めて笑い、


「刺すと中が締まって具合が良――」

「――――てぇえぇえええめえぇぇぇぇぇえええ!!!!!!!」


 男の言葉を遮るように、御鬼上さんが叫んだ。人の出せる音ではなかった。巨大な獣が、悪魔が、喉の奥から憎悪を音にして吐き出したような叫び声と共に、御鬼上さんは大樹の悪魔に斬りかかった。

 だけど、御鬼上さんの一振りは空を斬った。大樹の悪魔はずるりと体を引いて大樹の中に逃げ込んだのだ。そして、大樹のなかを悪魔が昇って行くのが外からでも分かった。それはまるで、蛇が獲物を嚥下しているような不気味な動きだった。


「クソが! クソ野郎が待ちやがれ!!!」

「待つのはお前だ!!」


 叫んで駆け出そうとする御鬼上さんの腕を、王狼さんが掴んだ。


「離せ! あいつは殺す!!」

「当たり前だ! だが何も考えずに突っ込んでどうする!!」

「知るか、突っ込んで切り刻んで——」


 言い争う二人の横に、どすんと何かが落ちてきた。ガシャポンのケースを大きくしたような妙な物体。なんなんだ、まだ何か居るのか。皆が咄嗟にその物体に向けて構えたが、中から出てきたのは……。


「ハカセ!?」

「なんとか無事みたいだな」


 いつものようにごきりと首を鳴らしたハカセだったが、鼻に絆創膏をしているのが目に入った。御鬼上さんが「どうした、ここにくるまでにやられたか」と声をかけるが、ジトっとした目で御鬼上さんを見るだけで何も答えなかった。え、なにその目は。


「そんなことよりもだ、常夜之桜の調べがついた。ありゃあ100人分の魂で誰か一人を化けものに変えられるって代物だ。手間の割にそんなに強力なモンじゃないが……あれは魔屍画に根を張ってやがる。早く止めないととんでもない事になるかもしれない」

「……どう止める?」

「それはわからん。とにかくあいつの魔素供給を絶つくらいしか思いつかん。幹本体を攻撃するよりも根を狙え、分かったな。それと真理矢」


 ハカセは手に持っていた何かを投げてよこした。咄嗟に私が受け取ると、眩い光を放った。反射的に閉じてしまった目を開くと、いつの間にか私の体に装甲がついていた。手足を見てみると、まるで聖歌隊の装備のようにも見えた。


「お前さんの姉貴からパク……共同開発した真・ゴブリンアーマーだ! 急ごしらえだが、お前さんでも悪魔と多少は戦えるようには仕上げてある。殴る蹴るしかできないが生身とは段違いだぞ」

「あ、ありがとうございます!!」


 ちょっとデザインに蛮族みというか、ゴブリンっぽい感じがあるのはこの際どうでもいい。今は皆と一緒に戦えることが嬉しい。武器がなくても別にいい。あいつをぶん殴れるなら十分だ。


「お前さんも戦えば少しは戦力になるだろ。私も協力させてもらうが……メインは千晴、お前さんたち四人だ。気張っていけ!」


 ハカセがぱんと手を叩くと、それを合図にしたように私たちは大樹の悪魔に向けて駆け出した。


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