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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~常夜之桜~ 編
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邪魔を

「うおぉおお!!」


 私は薄桃色の空間をやたらめったらに走り回っていた。体のしびれが取れた隙に逃げ出したはいいけれど、どっちに行ったらいいか分からない。まっすぐ走っているつもりだけど、あのビルはさっきも見た気がする。

 口の中に鉄の味がしてきた、もう走りたくない。そんなことを考えた瞬間、目の前に蒼い影が降り立った。それは毬音さんだった。いつの間に着替えたのか、落ち武者のように一部が砕けたような蒼い甲冑と、青黒い長髪が恐怖を煽る。


「……逃がさない」

「お、思い出してください! 貴女は千晴さんのお姉さんでしょう! 千晴さんと……話してあげて下さい!!」

「……もちろん、話したいわ……貴女の血で蘇らせてね……」


 駄目だ、説得できそうもない。逃げようと動かした脚に鋭い痛みが走る。斬られた、と分かった時には私は地面に倒れ込んでいた。傷は浅そうだけど、傷口から氷が広がり下半身の自由がきかなくなる。


「こ、のぉおおお!!」


 上半身だけ動かして毬音さんから逃走を試みる。下半身が凍ったゴブリンがシャカシャカと逃げ回る。なんだこの不気味なヤドカリは。……などとのん気な事を考えているうちに首根っこを掴まれて押さえられ、そのままずるずると引きずられていく。

 かなり走ったはずなのに、すぐに巨大で不気味なサクラの樹まで連れ戻されてしまった。やはりここは歪んだ空間なのだろう。樹の根元に放り投げられ、幹にへばりついたような顔と目が合った。


「おぅえっ! 気ン持ちわるぃい!!」


 私が体をはねさせて樹から離れようとすると、毬音さんに踏みつけられた。……もういいかげんさん付けするのやめようかな。そしてまた薄桃のもやの奥から老人が現れて私を見下ろす。


「……この無様な姿、コイツは本当に聖女なのか?」

「……不安になってきました」

「うるせー! 私だって好きでこんな姿になってるわけじゃないんだよぉ!!」


 おどけたような声で反論したのは、恐怖で押しつぶされそうな私の精一杯の反抗だった。言葉こそふざけたものが口から出たが、その音は震えていた。この歪んだ空間に、助けなどくるのだろうか。


「ま、試せば分かる……」


 老人は私のとがったゴブリンの耳を掴んで無理やり引っ張り上げた。ゴブリンの皮膚は丈夫なのか根元が裂けるようなことは無かったが、普通に痛い。持ち上げられた視線の先には、剣を構えた彼女が――。


「――――ッ!!」


 咄嗟に身を縮こまらせてしまった私の脳天に、鋭い衝撃が走る。ああ、死んだ。絶対死んだよコレ。頭を刺されるとどれくらい痛いの、今痛くないけどこれから痛くなってくるの、ああああ、ヤダヤダ怖い怖いこわいぃいい!!


「……あれ」


 確かに頭にぐわんぐわんと揺れるような痛みと、脳天に鋭い痛みはある。でも、せいぜい思いっきり頭を机の角にぶつけた程度の痛みで、死んでしまうほどではないように感じた。いや痛いっちゃ痛いんですけども。


「……丈夫ね」


 毬音が剣を引くと、私の血が付いているのは切っ先だけだった。私の――ゴブリンの頭は相当に頑丈らしい。でもあれだな切っ先だけとはいえけっこう血はついてるな本当に大丈夫なのかなこれ。


「……首はどうかしら」


 首はまずい気がする。確か頑丈なのは頭だけだったような気がする。必死に抵抗して頭で受けようとするが、老人に頭を掴まれ固定されてしまった。見た目に反した力で、頭がほとんど動かせない。この人もまともな人間ではないのかもしれない。


「……血を、ちょうだい?」

「や、やめ――」


 大上段に構えられた剣は、声ごと私を斬り捨てるように振り下ろされた。反射的に目をつぶると、風を切る音の後に痛みが――来ることは無く、代わりに私に届いたのは音だった。金属が何かに弾かれたような音。


「……邪魔を」


 目を開くと、薄桃色のもやが薄れはじめ、その先に膝をついて銃を構える人の姿が――王狼さんの姿が見えた。銃口から二度三度青い火が上がり、いくつもの銃弾が毬音に襲いかかる。毬音は剣でそれをさばき、王狼さんに向けて剣を構えた。

 だが、次の瞬間毬音に向かって大きな爪のようなものが襲いかかった。花牙爪さんだ。不意を突かれたはずなのに、毬音はしっかりと剣でその爪を受けていた。だが、反撃は間に合わず、身を捻った花牙爪さんの蹴りをまともに喰らって吹き飛んだ。

 気が付くと、私の体に黒い触手のようなものが巻き付いていた。蛙田さんのものだとすぐに分かった。触手は一気に上へと引っ張り上げられ、呆気にとられている老人から私を掠め取る。


「やあお姫様、貴女のナイトの登場ですよ」

「あはは~☆ 危機一髪~☆」

「……それ、言おうとしてたのに」


 いつもと変わらない調子の皆の様子に安心したのか、じわりと視界が滲んだ。


「あれ、御鬼上さんは……」

「あれは……置いてきた」


 王狼さんが歯切れ悪くそう言うと、蛙田さんも花牙爪さんもバツが悪そうに視線を逸らした。実のお姉さんと斬り合わなければならない場所に来るなんて辛いだろう。御鬼上さんがいないのも無理はない。


「なにをしている、さっさと取り戻せ!」

「……すぐに」


 今はとにかく、ここを切り抜けなければならない。

 私は構えをとる三人の後ろで、気を引き締めた。


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