きらりVS毒棘の悪魔
カシャカシャと悪魔じみたスマホが音を立てる。
自分に向けていたスマホを持ち直し画面を見ると、きらりは撮った写真を確認して満足げにSNSに投稿した。
「ずいぶん余裕ね」
「あはは~☆ だってこの先バエるものなさそうだし~☆」
きらりの前を歩く棘女は、心底馬鹿にしたような吐息を漏らした。
「生意気言ってられるのも今の内よ。私はシュナの一番なんだから」
むき出しのパイプや垂れ下がる輪状の配線が目につく廊下を進んでいくと、前方に木製の扉が見えた。凝った装飾が施された扉だったが、埃や染み、誰かが蹴ったであろう足跡まであり、今は見る影もない。
棘女が扉を開けると、湿った不快で不気味な空気が内側から這い出てきた。中に入ると、そこにはホルマリン漬けにされた異形が何人も居た。大小の悪魔憑きが巨大なガラス容器に入れられ、その顔はどれも苦痛に歪んでいる。きらりは「うわあ~☆」と呟いて首を傾け、ぐるりと目玉を一周させた。
「あはは~☆ 気持ち悪~い☆ バエな~い☆」
「あんたみたいな下品な奴には分からないでしょうね」
きらりはホルマリン漬けにされた悪魔憑きたちをぐるりと見回した。棘女は悪魔憑きが入れられた巨大なガラス容器を撫でながら、部屋の隅まで行って振り向いた。ぎちり、という歯の音と共に彼女の顔に浮かんだ笑顔は、まさしく悪魔のそれだった。
「これって何に使うの~☆ 実験とか~?」
「はあ? そんなことしないわよ。私に逆らった馬鹿の苦悶の表情を見るのが好きなだけ。でも最近新顔が居なくて飽きてきちゃって……ねえ、さっきまで馬鹿みたいに撮ってたのに、私のコレクションは撮らないの?」
「あはは~☆……こういうのは好きじゃないの」
「そう、だったら残念ね。あんたはここに仲間入りするのに」
不気味なホルマリン漬けの悪魔憑きたちの真ん中で、二人の視線が交わった。少しずつ空気が張り詰め、きらりは深く息を吸い込んだ。薬品と生臭い何かが混ざった不快な臭いが、彼女の鼻腔に入り込んでくる。
「あはは~☆ ワタシあなた嫌~い☆」
「そこは意見が一致したわね」
張り詰めた空気の緊張は飽和し、周囲のものにまで及び、悪魔憑きの入ったガラス容器から音がするようだった。二人が身に纏う空気が一瞬緩み、彼女たちは「じゃあ」と同時に呟き――同時に獲物を打ち出した。
「死ね」
「死んで~☆」




