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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
蛙田きらり という悪魔
23/208

その②

「おい見てみろ田中!」


 ハカセが机に大きな箱をドスンと置いた。置いてあった食器の半分が落っこちて割れたんですが。音にビックリしてまたゴブリンに戻ったんですが。服とエプロン弾け飛んだんですが。何してくれてんのこの白衣。


「魔素プリンターだ、こいつに魔素を入れると色んなものができるぞ!」


 私のとげついた視線を無視して、ハカセは箱の説明を始めた。べらべらと話し続けるハカセをしり目に、散らばった食器を手早く片付ける。こういう時ゴブリンだと手の皮が厚くて怪我しなくていいね。よくない。


「……というわけで、例えばほら! 魔素ボールペンだ!」

 

 かちかちと芯を出し入れするの度に怨嗟の悲鳴のようなものが聞こえる。気持ち悪っ。


「よかったですね」

「反応が薄いぞ、これを使えば巨大ロボットとかも作れるんだぞ!!」


 食玩を持って嬉しそうに言うハカセ。

 子供か。


「ちなみにそれ何体分の魔素使ってるんですか」

「え~と、20体分くらいかな」

「そんなくだらないことに使うなら私の姿戻すために使ってくださいよ!」

「くだらないって言うな!!」

「ごめんなさい! でも使い道は考えてくださいよ!!」


 ぎゃあぎゃあと言い争いをしていると、不意にパシャリと写真を撮る音が聞こえた。音のした方を見ると、やたらと露出の高い服を着た人が、ぴょこぴょこと奇妙な足取りで、二階へと続く階段から降りてきた。


「あはは~☆ 仲良しシーンいただきました~☆」


 足どり以上に掴みどころのない声で笑ったのは、蛙田きらりさんだ。ハカセの仲間の一人で、ふわふわしていて何を考えているかよく分からない人で、いつも手にしたスマホをいじくっている。そのスマホからは棘やら角やら悪魔の顔やらが生えている。怖い。


「さっそく『えすぴす』にアゲといたからね~☆」

「えすぴす……?」

「悪魔のSNSだよ~☆」


 そんなとこに自分の写真アップされたなんて嫌すぎるんですが。悪魔に見られて大丈夫なの? 呪われたり祟られたりしない? でも今の姿はゴブリンだからまあいいか。いいのだろうか。


「さっそくバエる!がもらえてるよ~☆」

「ばえる?」

「いいねみたいな感じかな~? あと100バエるで次の機能が使えるんだ~☆」

「次の機能?」

「ほらみてみて~☆」


 差し出された悪魔的スマホの画面には、おどろおどろしい棘のついた盾のような物がみえた。なんか先端が血で濡れているような気がするんですが。


「これで悪魔から身を守れるね~☆」


 身を守るというか、相手の身をえぐりそうなんですがこのとげとげ。


「おいきらり、今何個目の機能だ」

「う~ん、50個くらい~?」

「666個中まだ50か、悪魔向けな写真アップしたほうがいいんじゃないのか」

「悪魔向け~?」

「ほれもっとこう、血みどろなやつとか」

「やだ~☆ にこにこ笑顔の方がすき~☆」


 蛙田さんは「ね~?」と言いながら私を抱き寄せ、胸を顔に押し付けてくる。何これ柔らか……でも、胸に顔を埋めるゴブリンってこれなんか、なんかこれ、特定の人向けのいかがわしいアレやソレな絵面になってません?


「おい、ゴブリンの凌辱モノみたいな絵面になってるぞ」


 濁したのにダイレクトに言うな!


「それより、仕事だきらり」

「え~? ワタシ~?」

「悪魔憑きの反応が出たんだ」

「反応?」

「そう、これにな!!」


 ハカセは得意げに丸い懐中時計のようなものを取り出した。そこに数字や針はなく、光る棒のような物が時計の秒針のように回っている。速さは秒針の比ではなく、一秒ごとに一周しているようだ。


「なんですかこれ」

「悪魔憑きの居場所を探る機械!名付けて悪魔レーダーだ!!」


 直球すぎるネーミングセンス。


「これも魔素プリンターでつくったんだ、どうだ役に立つだろう」

「まあ、そうですね」

「反応の鈍い奴め……依頼を待ってるだけじゃなくこっちからも動いていかないとな。ルディとお前が狩ってきた狼男の魔素がちょうどよくマッチしてな」


 ふと、狼男の最期が思い起こされる。彼は何が言いたかったのだろう。家族に殺しを依頼されてどんな思いだったのだろう。黙ってしまった私を差し置いて、ハカセと蛙田さんは話を進める。


「反応があった場所で情報を集めたがな、既にその辺りにたむろしてたろくでなしが何人も食われてるらしい」

「じゃあ~あの作戦~?」

「そうなるな」

「あれ痛いからやだな~」

「お前がもっとその『パンドラ』の機能を使いこなせばいいんだ。だからバエる稼ぎにもっと……」

「それはムリっぽい~☆」

「だよなあ。ま、とにかくそこのゴブリン聖女様と一緒に行ってきてくれ」

「え、私ですか」

「例のごとく、きらりの覚醒の具合を知りたいんでな」

「ああ、なるほど……」


 私に拒否権はないようだ。またあんな化け物と対峙しなきゃならないのか。

 化け物、本当にあれらは……あの人たちは化け物なのだろうか。

 私の思考は、ぬっと目の前に現れた蛙田さんの顔に驚いて止まった。


「よろしくね~☆」

「あ、はい……」


 私が答えると、蛙田だんは尻上がりな調子で笑い、ぴょこぴょこと玄関に向かって行った。この人大丈夫かなあ、と思いつつも私は付いて行くしかなかった。


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