四聖天女が確保する
「ぐ……やはり、強い……!」
膝をつくお姉ちゃんのまわりに、聖歌隊の人たちが転がる。呻いていたり痛みに身をよじったりしているから死んじゃったりしてる人は一人もいないけど……。
「や、やりすぎですよ皆さん!」
ようやく光の輪の拘束から逃れられた私は、お姉ちゃんの前に仁王立ちする四人に駆け寄り間に入る。なにがなんだか分からないけれど、非常にまずい事になっているのは分かる。
「……安心しろ、これ以上はやんねえよ」
「キミの家族を必要以上に傷つけたりはしないさ」
「よ、よかった……それで、なんでこんなことになったの?」
膝をつくお姉ちゃんの前にしゃがみ、ハンカチで傷を押さえる。
「む~敵さんじゃなくて私たちの傷手当てしてほしい~☆」
「……適材適所」
擦り傷程度の二人に手で返事をしながらお姉ちゃんの顔を覗き込む。申し訳なさそうにしながらも、その瞳には見たこともないような必死さが見て取れた。何度か立ち上がろうとしてうまくいかず、お姉ちゃんはようやく観念したように口を開いた。
「さっきも言ったが、お前を保護するように上からの指令が出た」
「上ってなんだよ天子様か? それとも神様?」
「……聖歌隊にとってはそう呼んでも過言ではない方々だ。とにかく、上は悪魔憑きを快く思っていない、だから彼女たちが出張る前に君たちに同行を……」
「それは聞き入れられないなあ」
いつの間にか姿を現したハカセが、ぶっきらぼうに答える。その顔はやつれ、目の下には真っ黒なくまが見える。心配する私の問いかけを無視して、博士はしっかりした足取りで歩み寄ってくる。
「悪いがこいつらはやれねえよ……大事なんだ」
「ハカセ……四聖天女様が来ている」
博士の眉が吊り上がった。シセイ……何とかというそれがどうかしたのだろうか。
「どういうことだ、各都市の防衛はどうなってる」
「悪魔や悪魔憑きが少なくなっているのは知っているだろう。手が空いたからこちらにお越しになり、真理矢の確保を──」
「機密事項を漏らすな」
私のすぐ横から声が聞こえると同時に、背後から飛沫が私にかかった。反射的に振り返り、その飛沫は赤い血だと気が付いた。血を流す千晴さんたちも驚きで目を見開くことしかできていない。いったい今何が起きたのか、そこにいる全員が……いや、私の横にいる知らない聖歌隊の人以外が状況を理解できていなかった。
「あ、天鐘様……!」
「やはり時間の無駄だったな。こいつらは特級悪魔だ、我々……四聖天女が確保する」
一瞬にして3人の聖歌隊が現れ、千晴さんたちが地に倒れ伏す。いったい何が起きたんだ。コンクリートの地面にめり込む千晴さん、バチバチと音立てながら全身を焦げつかせ倒れるルディさん、今度は四肢から血を吹き出すきらりさん、謎の機械に押しつぶされるように捕らえられる紫陽さん──。
「み、みなさ──!」
再び現れた光の輪に、私はまた捕らえられてしまう。さっきよりも締め付けがきつく、息が詰まる。うまく呼吸ができず、視界が徐々にぼやけてくる。意識を失う直前に見たのは、震える唇を噛み締め、私を受け止めるお姉ちゃんの顔──。




