決して殺すな
なんとか生きています・・・
「またウノって言ってないぞ」
「……くそ、忘れちまった」
デビルバニーのカウンターで、今日もみんながわいわいと時間をつぶしている。千晴さんとルディさんはカードゲームで遊び、きらりさんはご家族と電話で楽しそうに話している。紫陽さんは最近読み始めた四字熟語の図鑑(子供用)に楽し気に目を通している。私はお気に入りの音楽をかけながら、紅茶とお菓子を楽しんでいる。
私の目の前には2人分ティーセットがあるけれど、片方を楽しむべき人の姿は見えない。その人──ハカセは最近あまり姿を見せない、研究がはかどっているとのことだったけど、毎日のおやつ時間や時々食事にも表れない。
心配になった私は、冷めかけた紅茶とクッキーをもって立ち上がろうとした。そのとき、玄関の扉が叩かれた。
「はーい?」
腹筋に軽く力を込め、扉を開けるとそこには──。
「あ、お姉ちゃん」
彩芽お姉ちゃんが立っていた。天使を模した聖歌隊の白鎧をつけているところを見ると、お仕事の途中なのだろうか。ふと顔を見ると、変にこわばっているように見えた。
「お姉ちゃん、どうかした?」
「ああ、いや……」
「おー聖歌隊の姉さんか、一緒にウノやんね?」
「おい、負けてるからって仕切りなおそうとするな」
千晴さんたちの問いかけにも答えず、硬い表情で私たちをただ見ている。もう一度お姉ちゃんに呼びかけようとしたとき、周囲に一斉に人影が現れた。それらの影はお姉ちゃんと同じ聖歌隊の鎧姿だった。聖歌隊は剣を抜き、槍や銃を構える。
「お、お姉ちゃん……?」
「……真理矢。今すぐ一緒に来れるかい」
「え、なに。どうしたの?」
「お前を保護することになったんだ。だから、一緒に来てほしい」
「いきなり言われても……みんなに話してみないと……」
「時間がないんだ、頼む真理矢」
私の肩をつかむお姉ちゃんの腕は震えていた。私を見つめるその顔も余裕はなく、本当に大変なことが起きているという事は理解できた。私が口を開こうとした瞬間、お姉ちゃんの腰についたデバイスのようなものが青白く発光した。お姉ちゃんはびくりと肩を震わせると、一瞬目を伏せ──。
「すまない……無理にでも確保させてもらう」
瞬間、青白い輪のようなものが現れ私を縛り付けた。痛みはないけれど身動きが取れない。わけのわからないまま私の足は地面を離れ、お姉ちゃんのほうへと横滑りに移動する。お姉ちゃんが私を受け止めるその前に、刀を構えた千春さんが間に割って入った。
「おい、冗談にしちゃ笑えねえぞ」
「……冗談ではない、真理矢は我々が確保する」
「へえ、これくらいの戦力であたしら止められると思ってんのか?」
かろうじて動く首を後ろに向けると、ルディさんたちも戦闘態勢に入っていた。
「戦力はここにいるだけじゃない。君たちのことを思って投降を勧めている」
「それはお優しいことで、理由も聞かずに真理矢を渡せるか」
「ちょ、ちょっと待ってください! 戦っちゃだめです!」
「そうだな賛成だ。なんでこんなことすんだよお姉さま?」
「返答によっては……」
ルディさんが低い声と共に銃を構えるのが横目に見えた。きらりさんもスマホを構え、紫陽さんも両手の爪を伸ばしている。
「ああ……お前たちも確保させてもらおうか」
「お姉ちゃん!?急に何言いだすの!!」
「……後で説明する」
「いや今してよ!今すごくまずい状況だよ!?」
私は必死に訴えるけれど、お姉ちゃんもみんなの顔もどんどん険しくなっていく。それこそ本当に戦いが始まってしまうほどの空気がひりつく。
「……真理矢の確保指令が出た。黙ってついてきてくれ」
「あたしらが黙って従うとでも?」
「やはりこうなるか……お前たち!」
お姉ちゃんの声と同時に周囲を取り囲んでいた聖歌隊の人たちが一斉に武器を抜いた。
「力づくで取り押さえる。決して殺すな!」




