これから排除する
「わ、私の妹ですか……?」
「そうだ、お前の妹とその仲間をこれから排除する。それが嫌ならお前が自分で始末をつけろ」
彩芽がなんども喉を鳴らしながら答えると、天鐘刻羽が懐中時計を見下ろしながら早口で言い切った。
「いったいなぜ……」
「要件は伝えた、貴様に意見は求めない」
ぴしゃりと言い切ると、刻羽はブーツを鳴らして彩芽のわきを通り、部屋の出口へと向かってしまう。彩芽は振り返り、理由を問いただそうとするがそこにすでに彼女の姿はなかった。
「あーあ、さっさと帰っちまった」
「刻羽ちゃんはせっかちだものね~」
のんきに離す四聖天女を前に、彩芽だけが額に汗を浮かべて立ち尽くしていた。その横を穏凪ルミナ「わたしも準備があるから失礼します……」と小さな声で囁き、そそくさと出て行ってしまった。
「あの……」
「だったらなんでさっきまでグダグダ話してたんだっつーの」
「久々に私たちにあえて嬉しかったのよ~」
「あの!」
震える彩芽の声に気が付き、四聖天女が彼女を見下ろす。
「理由をお聞かせ願えますか」
「……まあ、いいぜ」
那久里はソファに深く腰掛け、彼女の身長以上もある機械腕で対面に座るよう促した。彩芽が移動するうちに雷霞に「あとはアタシが」と短く伝えると、雷霞もふわりとした足取りで部屋を出ていく。
「それで、なんでお前の妹を排除するのかを聞きてぇんだよな。ぶっちゃけるとアタシらもしっかりとした理由は知らん。アタシらも社長……デイジーさんに言われただけで理由なんざ聞いちゃいねえんだ」
対面に座った彩芽が、抗議しようと立ち上がろうとするのを巨大な手で制し、那久里は続ける。
「社長が求めるなら黙って従う、それが宮仕えの身の辛いとこだ……まあ、理由なんざだいたい想像はつく、あいつらは力をつけすぎたんだよ。魔屍画のヤベエ悪魔をぶっ殺すほどの悪魔憑きを放っておくわけにはいかねえのは分かるよな?」
那久里は自分の手でテーブルの上の菓子を取り、口に放り込む。それとなく彩芽にすすめるが、彼女が動かないのでまたソファにどっかりと座りなおす。
「お前の妹は特にヤベエ。聖女と悪魔の両方の力を持ち合わせてるなんてよ」
「ですが、今までは……」
「だから、力をつけすぎたんだっての。それに今は魔屍画を塞いだおかげか地方にはザコしか沸かない。今しかねえんだお前の妹とそのお仲間を排除するのは」
那久里はソファを軋ませ、彩芽に顔をぐんと近づける。それに臆することなく、彩芽が鋭い視線を彼女に返す。だが那久里はたじろぐことなく彼女を見つめていた。そしてふう、と息を一つ吐きだした。
「お前に話したのはアタシらの優しさだぞ? 排除っつっても殺す必要はねえ。刻羽のアホが言葉を選ばなかっただけだ。むしろ社長には殺すなって言われてんだ……だが、相手は悪魔憑きだ、抵抗されりゃ不慮の事故もあり得る……つまりだ」
那久里は自分の手をパンと叩く。
「お前に説得させるチャンスをやるってんだ。刻羽のアホ、雷霞のドSが動く前にあいつらを説得して投降させろ。そうすりゃアタシらの手間も省ける、お前の妹も傷つかずに済む。貴重な聖魔混じった生物だからな、せいぜい軟禁して定期的な検査くらいなもんだろ」
「妹以外の安全は……」
「死にはしねえよ。聖魔隊もあることだしそこに所属させてもいい……どうでもいいだろそんなことは。それより早くしねえとあの二人が行っちまうぞ? ま、アタシはぶっちゃけどっちでもいい」
言葉を切り、彩芽の返答待ちとなった。彼女は俯き視線を泳がせていたが、選択の余地はないと、1分ほどで決断した。
「……わかりました」




