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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~四凶と八仙花~ 編
199/208

並んだ墓石

「……墓石、増えちまったな」


 千晴さんがぼそりと呟いた。私たちの視線の先には、墓標が二つ並んでいる。ひとつは千晴さんのお姉さん、毬音さんのお墓。もう一つは新しく作った蝶華さんのお墓。紫陽さんはその墓標の前に立ち尽くし、私たちの場所からはその表情はわからない。


禹夏は他の悪魔憑きたちと一緒に聖歌隊の共同墓地に埋葬された。紫陽さんの気持ちを考えると妥当な判断だったと思う。あそこにいた悪魔憑きの生き残りは、牛窪たち聖歌隊に引き取ることになった。なんとか正気を取り戻してほしいけど、どうなるかはわからない。


そう、その悪魔憑きだ。禹夏が色々と言っていた『扉』だの『鍵』だの。それについてハカセに問いただしてみた。それを聞いて、私は愕然とした。今、皆がどこか暗いのも紫陽さんが大切な人を失ったせいばかりではなく、ハカセに言われたことも少なからず影響していた。


 博士は、私たちはいずれ禹夏のようになるとそう言った。魔素を取り込み続ければそれだけ強い悪魔憑きになれるが、その分人間性は失われていく。それは確定した未来なんだとハカセは言った。遅いか、早いかの違いでしかないと。


完全に理性を失った強大な悪魔憑きを魔死画のような場所へ連れていくと、『扉』を開く『鍵』になる。それは、悪魔を現世に呼び寄せることだと。


『おそらく蝶華、いや禹夏はそれを狙っていたんだろう。悪魔を呼び寄せ悪魔憑きとして暮らしやすい世の中にでもしようとしたんじゃないか』


 ハカセはそんなことを言っていたけど、もう禹夏の計画なんてどうでもよかった。――私たちは、いつか禹夏のように狂ってしまうかもしれない。そのことが怖くて仕方がなかったから。蝶華さんも何かに精神をのっとられそうになっていた。それはつまり、私もそうなってしまう可能性があるということだ。


私は自分の両手を見つめる。この手は、悪魔の手。いつの日か――私は、私のままでいられるのかな。その疑問の答えを知るのが怖い。恐怖で体が震える。


「……大丈夫」


 静かに、前方にいた紫陽さんが言った。


「……皆なら、大丈夫」


その優しい声を聞いて、私は唇をかみしめた。紫陽さんは今、私よりもずっと辛いはずだ。大切な人を二度も失ったというのに、前を向いて歩いていこうとしている。それにひきかえ、私は……。ふと、震える両肩にそっと手が触れた。千晴さんとルディさんの手だった。


「ま、考えても仕方ないことは考えねえことだな」

「そうだね、我々は今まともなのだから」

「あはは~☆ そうそう、今を楽しも~☆」

 

 きらりさんが私の頬に指をあて。ぐいと引き上げて無理に笑顔を作ってきた。裏の無い笑みを浮かべるきらりさんに、私はふっと息を吐いて笑った。


「まあ、私らがおかしくなっちまったら真理矢に止めてもらうか」

「そうだね、キミの言葉になら私の心が反応してくれるはずさ」

「あはは~☆ 真理矢ちゃんならとめてくれそ~☆」

「そう、ですね」


そう言った私の肩の震えは、いつの間にか止まっていた。私は目を閉じて、首を振った。今は考えないようにしよう。この素敵な人たちと、生きていられる今を大切にしよう。そしてもし、皆が道を踏み外すようなことがあれば――。


「私が、ぶん殴ってでも止めます!」


 そう言って、私が目を開けると、みんなは大きな声をあげて笑った。「私が駄目になったら皆さんで止めてくださいね」と付け加えると、三人ともうんうんと頷いてくれた。もし、皆が正気を失っても、力づくで取り戻せるように強くなる、絶対。そう心に誓った。


しっかりとした足取りで前に進み、紫陽さんの横に立った。蝶華さんのお墓に向けて目を閉じて手を合わせる。目を開いてふと隣を見ると紫陽さんが空を見上げていた。私もつられて見上げると、そこには真っ青な空が広がっているだけだった。雲一つない青空に、太陽が眩しく輝いている。その太陽の光がまぶたを刺激して、思わず私は手で遮った。


 きっと、私たちの未来もこの陽の光みたいに――


「おう、なにやってんだてめえら」


 不意に、野太い声が背後から聞こえた。振り返るとそこにはタトゥーだらけの色黒の男、牛窪が家の角からこちらを覗いていた。それに気が付いた千晴さんが盛大に舌打ちしてからメンチを切る。


「あ? てめえ何しにきやがったんだコラ?」

「てめえらがイカレてねえか見に来てやったんだよコラ」

「てめえと一緒にすんな黒牛野郎」

「なんだやんのか赤鬼女」


 千晴さんが「上等だコラァ!」と牛窪に殴り掛かり、牛窪もそれに応えようと拳を振り上げたので、私たちで慌てて止めた。怒り狂ったケダモノのように威嚇し合う二人を無理やりに押さえつける。


「これじゃ悪魔と変わらないよ……」


 私は晴れ渡った空を見上げて、嘆いた。

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