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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~四凶と八仙花~ 編
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凍結、決着

 太い銃口から弾丸が散開して散らばる。散弾銃に似た銃弾だったが、その連射性は機関銃のそれであった。散開発射された小さな弾丸の雨粒は敵の視界を遮るほどの弾幕となって襲い掛かった。

大鎌の悪魔憑きは風を巻き起こし、弾丸を巻き上げ吹き飛ばし、防御に徹した。地鳴りのような射撃音は一向に収まらず、荒れ狂う風の音もまた止まない。同じ膠着状態でも、先ほどとはあまりにも激しさが違った。


「なるほど、手数で勝負ってわけか」

「……」

「だが、それくらいのことは私にもできる」


 大鎌の悪魔憑きの体から針が零れ落ち、風に乗ってルディへと襲い掛かる。散弾の雨と針の雨がぶつかり合い、四方へばらまかれる。大鎌の悪魔憑きは致命傷になりかねない弾丸のみ防ぎ、わずかな傷は悪魔憑きの回復力でカバーした。ルディも同じようにしているのだが、彼女ばかりが傷を負い、血を流した。


「ほら、防御が疎かになっているぞ!!」


 大鎌の一振りが頭上から流れ落ちる水をとらえ、一筋の水刃となってルディの状態を深く切り裂いた。脚を固定したルディはかわし切ることはできなかったのだ。この戦いで初めて負った重傷に、ルディは意識が飛びかけた。


(ま、まだだ……!)


 ルディは狼のように変異した歯を噛みしめ、その場にとどまった。血まみれになりながらなおも引き金を引くルディを残虐な笑みを浮かべて見下ろした。


(不思議だろうなあ、なんで針は当たっていないのに傷を負うのか……)


 大鎌の悪魔憑きは水刃を繰り返し放ち、ルディを切り裂き、その度に頬を嗜虐で歪ませる。


(私の針は特別でね、魔力を与えると周囲を急速に冷却する。針が躱しきれなくてに当たっているんじゃない、皮膚表面の空気が急激に冷やされるから、皮膚が変性して裂ける。いうなれば規模の大きなあかぎれってわけだ)


 悠々と鎌を振りながら、大鎌の悪魔憑きはまた歪んだ笑みを浮かべる。


(何もわからないまま誠実な奴が死んでいくのを見る、これ以上の快感はない……さあ、氷漬けになって死ね!)


 暴風は勢いを増し、風に乗る氷針は散弾で撃ち落としきれなくなっていた。ついにルディの手は止まり、無数の針が彼女の全身に突き刺さった。血しぶきすら凍り、崩れ落ちるその顔は大鎌の悪魔憑きが待ち望んだもの――ではなかった。血まみれの顔は、不敵に笑っていた。


「――Zennw di(我が牙で)ghiaccio(凍てつけ)……!」


 瞬間、びしりと何かが凍り付く音が鳴り響いた。続けて何かが崩れ落ちる音。大鎌の悪魔憑きが何が起きたか気が付いた時には、それはすでに彼女の頭上に迫っていた。それは――凍り付いた滝だった。


「なっ――!!」


倒れてくる二本の巨大な氷柱を押し返そうと、風をそちらに向けた一瞬。その隙をルディは逃さなかった。足を支えていた装備を一瞬で銃身へ移し、二つの銃口へと変貌させる。針が突き刺さり、霜が降りた体を無理やりに動かし、ルディは引き金を二度引いた。発射された弾丸は、四発。それらが正確に大鎌の悪魔憑きの両手足を打ち抜いた。


「な、に――――!!」


 両手足の機能を失った大鎌の悪魔憑きは自分に何が起きたのか理解する前に、巨大な二本の氷柱に潰され、埋もれた。


「作戦成功なの!」

「見事にぺったんこよ!!」

 

 ルディは自分が受けていた傷は冷気によるものだと気が付いていた。針が冷気を発生源だと判断し、ルルとロロに集めさせていた。それがバレないようスゥの弾幕で大鎌の悪魔憑きの視界を遮るような大技を繰り出したのだった。注意がこちらにむいたすきに針をかき集め、流れ落ちる人口の滝に放り投げたのだ。


「ああ、ふたりともありがとう」

「んみぃ……」

「もちろんスゥもね」


 轟音を立てて崩れゆく氷柱を睨みながら、ルディはゆっくりと立ち上がり、大きく息をつく。だが、とことこと駆け寄ってくる狼娘たちの姿を見てなお、その目はまだ鋭い獣のものだった。ルディは満身創痍の身体に鞭打ち、震える手で銃を杖のようにして歩き始めた。崩れゆく氷塊に向けて歩を進める、最後の一発を放つために。狼娘たちが彼女のまわりを心配そうにうろうろと歩き回る中、大鎌の悪魔憑きの元へとたどり着いた。


「やあ、気分はどうかな……?」

「……いいように見えんの?」


 氷塊の下に、大鎌の悪魔憑きは横たわっていた。その身体は半ばまで潰され、手足は折れ曲がり、顔の半分は潰れて原形をとどめていなかった。それでも彼女は死に切れていなかった。自分を見下ろすルディの顔を見て「イラつく」と白い息と共に呟き、大鎌を持ち上げようとした。ルディが彼女の額に銃を押し当てると、一度動きを止めてから大きく息を吐いた。


「……まあ、負けたのがあんたでよかった」

「そんな爽やかな言葉がお前の口から聞けるとはね」

「そうでもない、聖歌隊にまけるよりはマシってだけ」

「どういう意味かな」

「私たちは同じ、『悪魔憑き』だからね」

「……同じにしてほしくないな」

「同じだ、聖歌隊や普通の人間からしたらね……」

「…………」

「このまま死ぬのは最高にイラつく、禹夏(うか)にも顔向けできないし、ね――ッ!」


 折れた腕で振るった大鎌はルディに届くことは無かった。銃声の後、大鎌が床に落ちる音だけが広い部屋に響いて消えた。ルディはため息をつき、足元に転がる大鎌の悪魔憑きを見下ろした。大鎌の悪魔憑きが事切れたのを確認すると、安堵した表情で膝から崩れ落ちるように倒れた。


「ル、ルディしっかりなの!」

「無理しちゃだめよ!」

「んみぃ!」

「大丈夫、と言いたいところだが流石に疲れたね」


 ルディはごろりと仰向けになり、やたらと高い天井を見上げた。それから目を瞑って呼吸を整え始めた。


(あの子のことは頼んだよ、紫陽……)


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