ここで死ね
「アハハッ、いい恰好じゃないか!」
高笑いする大鎌の悪魔憑きの眼下に、ルディが膝をついていた。彼女の体には十数本もの針が突き刺さっていた。衣服もところどころ破け、血がにじんでいる。急所こそ避けているものの重傷には違いなかった。両脇で巨大な滝が流れ落ちる水音に、耳鳴りの音が交じり始めていた。
「あの攻撃をしのいだのは流石だが、その姿……まるでハリネズミだな」
「キミの、方こそ、ハリネズミみたいな服を着てるじゃないか……」
「せっかく収まった軽口がまた出てきたな」
大鎌の悪魔憑きは嗜虐的な笑みを浮かべ、心底楽しそうにしながら、階段を数段上った。傷つき膝をつきながらもながらもじりじりと距離を詰めようとしたルディにしっかりと気が回っている証拠だ。
「何を企んでいるか知らないが、距離は保たせてもらうぞ」
「ずいぶん、臆病だね……」
「挑発しても無駄だ、ほかの馬鹿共と一緒にするな、イラつく……」
「馬鹿共……?」
「渾敦と檮杌のことだ。あの馬鹿共は力に飲まれ、脳がまともじゃなくなっていた。ここでの殺し合いでイカレた獣同然の馬鹿だ」
大鎌の悪魔憑きはこめかみをとんとんと指でたたいた。
「禹夏の計画だって理解しちゃいない、単なる『数合わせ』だ。ここで殺してきた数が多いだけのな。だがまあ、嫌いではないよ。やつらは歪んで曲がって、間違っているからな……私はね、お前みたいな真っ直ぐ芯が通ったやつが大嫌いなんだよ、最高にイラつく……!」
「長々と話した割に、つまらない内容だったね」
「だったらどうする?」
「……キミみたいな不快な輩にお気に入りの店を紹介するのはやめることにするよ」
ルディは懐から真理矢の血が入った薬を取り出し、心臓に打ち込んだ。悪魔の血流、その源泉に聖女の血が注がれ、彼女の全身にいきわたる。全身に刺さった針が吹き飛び、狼の尾のように頭髪が伸び、獣の耳を形作る
「姿を変えたところで何になる。とっとと死ね、これ以上イラつかせるな」
「……みんな、準備はいいかい?」
『もちろんなの!』『いいわよ!』『んみぃ!』
鎌を振り上げる悪魔憑きの眼下、階段の踊り場でルディの体が青く光る。手にした三つ首の銃身が一つにまとまり、大口を開けた狼のような太い銃身へと変貌する。太い銃身は狼のような二本脚部に支えられ、ルディの両脚も鉄製の狼脚と化し、鋭い爪を床に食い込ませて体を固定した。
「さっきのセリフ、そのまま返すよ……」
「……!」
「ここで死ね……Il lupo starnutisce」