覚醒×2
疑問符を浮かべていた千晴は、牛窪の黒く太い腕に引き起こされた。千晴はふらつきながらもなんとかその場に立ち、聖歌隊の装備を窮屈そうにいじくる牛窪に向けて、当然の疑問をぶつけた。
「てめえ、なんでここに……」
「あ? ボスに頼まれて来たんだよ」
「真理矢の姉貴か、聖歌隊は動けないんじゃないのか」
「だから俺が来た。俺らは所詮戦う事しかできないからな、地域の保全任務なんかには呼ばれねえのさ。それに、ボスに頭下げて頼まれちまったら断れねえ」
「まあ、真理矢のためなら頭くらい下げそうだ」
千晴が笑みを浮かべると同時に、鉄格子のリングが揺れた。大牙の悪魔憑きが鉄板の床を殴りつけたのだ。二回、三回と床を殴りつける度、リングが大きく揺れ、重い金属音が響き渡る。
揺れが収まると、大牙の悪魔憑きがその姿を変えて行く。口から生えた牙は頭の上まで伸び、その頭からは牙よりもさらに長く禍々しく角が伸びていく。全身の筋肉が膨張し、赤黒い毛皮の服が皮膚と同化していく。
体の膨張が収まると、大牙の悪魔憑きは頭を振り上げ咆哮を上げた。声の圧が空気を震わせ、鉄格子のリングを揺らす。振り上げた頭を千晴たちに向ける悪魔憑きの体躯は、練り上げられた筋肉で倍の大きさになっていた。
「なぁんでお前まだ死んでねえんだ!? もう一人も早く死ね!!」
「なんだこいつイカれてんのか」
「そうみたいだ。だが雑魚じゃねえ」
「さっきボコボコにされてた――」
大牙の悪魔憑きの突進により牛窪の言葉を遮られた。巨躯に似合わぬ俊敏さで距離を詰めた悪魔憑きは、大木のような拳で殴りかかった。あまりにも俊敏な動きで、二人とも反応できなかった。牛窪は顔面、というより上半身で大牙の悪魔憑きの拳をまともに喰らった。血がしぶき、大牙の悪魔憑きの赤黒い毛に染みた。
だが、牛窪は倒れなかった。それどころか巨大な拳をじりじりと押し返し、ついには大木のような腕を体だけで押し返してしまった。僅かに動揺した大牙の悪魔憑きをよそに、牛窪は歯を見せ、鼻に詰まった血を息で抜いた。
「思ったより痛ぇじゃねえか、期待できるぜ」
「なんで死んでねえ! 死ねよ!」
「すぐ死んじまったら楽しめねえだろ?」
ごきりと音立てて首を回し、牛窪が拳を握りしめると、その拳が青白い光を放ち始めた。光は拳から彼の全身へと移り、聖歌隊の装備がその形を変えて行く。ひときわ大きく輝くと、その中から新たな装備を身に着けた牛窪が現れた。
彼の黒い肌とは対照的に、白いたてがみが彼の首周りを覆っていた。そのたてがみは白毛のマントのように背後へと広がる。上半身は黒肌が晒され、下半身は白毛に縁どられた蒼鎧が装着されいた。彼の両拳にも下半身の鎧と同じような配色の、魔牛を模したような手甲が装備されていた。牛窪はその手甲をがちんと打ち鳴らし、
「さあ、殴り合おうぜ……!」