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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~四凶と八仙花~ 編
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対峙する悪魔憑き達

 影が、きらりを吹き飛ばした。


 その影は四方を跳ねまわり、上階に消えた。鉄柵がへし折れ吹き飛ぶ耳障りな音が鳴り響き、それを追うように調子はずれな笑い声が続く。ひとしきり笑い声をあげた影は、上階からひょうと顔を出して階下の三人を見下ろした。


「ゲスト!ゲスト!!あ~~~~っひゃひゃひゃ!!!」


 瞬間、銃声が鳴り響き弾丸が撃ち出されるが、その影を捉える事はできなかった。三人の警戒をかいくぐり、狂笑の悪魔は獣のような腕を振り上げ突撃してきた。が、彼女もまた三人を殴りつける事はできなかった。


「あひゃ?」


 狂った笑みを浮かべた悪魔は、宙に浮いたまま止まっていた。彼女の体には無数の触手が絡みつき、その動きを止めていた。千晴たちは攻撃を加えようと構えるが、その前に悪魔は四肢を振るって拘束を引きちぎった。


「あはは~☆ ここは任せて~☆」


 千晴たちの前に、きらりがすとんと降り立った。額から流れる血をぐいと拭い、禍々しいスマホから幾本もの触手を繰り出し、狂笑の悪魔を追い回す。

 

「……きらり、協力して倒そう」

「あいつ素早いよ~? 手こずってる間に他のに逃げられるかも~☆」

「うん、一理あるね」

「……でも、あいつも強い」

「なんだ紫陽、信じてねえのか?」

「あはは~☆ 大丈夫だよ、信じて?」


 きらりの言葉に紫陽は逡巡したが、頷いて駆け出した。他の二人も紫陽の後に続き、牢獄から先へと進んでいった。


「あ~~~~っひゃっひゃ!! タイマン、タイマン!!」

「あはは~☆ 変な笑い方~☆」

「あ~~~っひゃひゃ!! あんたも! あんたも!!」


 血錆びに塗れた牢獄の中心で、二人の悪魔憑きは対峙した。


     ◆


『一人で戦わせてよかったのかい?』


 牢獄を抜けた三人に、またどこからか禹夏の声が聞こえた。


『あいつは頭はカラだが実力は折り紙付きだよ?』

「べらべらうるせえ野郎だな」

「ああ、すぐにでも黙らせに行こう!」

『そう簡単にできるかな?』

「こっちの音声も拾ってんのかどうなってんだ」


 千晴が苛立たし気に言うと、紫陽が足を止めた。道が二つに分かれていた。その二つは対照的で、片方は小ぎれいな道が続いていたが、もう片方は大きな金網の扉で、それは血で汚れていた。紫陽は闘技場とVIP席との分かれ道だと二人に伝えた。


「なんで牢獄とVIP席が繋がってんだよ」

「……優秀な奴は、VIPの護衛として雇われるから……」

「それにしたってなんて不用心な」


 次の瞬間、血に汚れた金網の奥から音が聞こえた。マイクの電源を入れたような音で、男の声が続く。


『レディースアンドジェント……まあ今日はどちらもいねえが放送させてもらうぜ!』


 男の声の裏側に、大勢の人間の――悪魔憑きの唸り声が聞こえた。獣にも似たそれには殺意が込められており、その数は男の背後で波のようにさざめき、相当な数の悪魔憑きが居る事がうかがえた。


『侵入者のお前ら! お前らの中で一番腕に覚えのあるやつ、こっち来い! 選りすぐりの悪魔憑きが大勢いるから死ぬまで戦おうじゃねえか!!』


 男が『待ってるぜ!!』と言うと、マイクの音は途切れた。数秒の間があり、千晴が金網の扉へと手をかけ、その肩をルディが掴んだ。


「おい、何してる」

「この中で最強は私だろ?」

「そういう事をいってるんじゃない、明らかに罠だ」

「わかってるよ、だけど行かなきゃ挟み撃ちにされるだけだろ」

「……千晴」

「心配すんなって、私は最強だからな」

 

 千晴はそう言い残して、二人を置いて金網の扉を開いて奥へと進んでいってしまった。ルディも紫陽も、千晴の言う事には納得していた。ここで無視して先に進んでも後ろから襲われるか、きらりの元へ増援が向かうだけだろう。


「……行こう」


 ルディの言葉に、紫陽は黙ったままVIP席へとつながる通路に向かった。小ぎれいだが無機質だった通路に、徐々に装飾品や調度品が見え始める。突き当りのドアを守る悪魔憑きを蹴散らし奥へと進む。


 ドアの向こうは赤い絨毯がひかれ、緑や赤、金で装飾された調度品の並ぶ絢爛豪華な通路になっていた。だが、造りは豪華であってもそのどれもが埃にまみれており、管理などされていないことが分かった。


 道中襲い来る悪魔憑きたちを倒しながら先へと進んでいくと、大きな広間へと繋がっていた。そこは、通って来た通路と違い、幾分綺麗にされていた。金の装飾が施された赤い柱が高い天井に向けて伸びており、その奥には作り物の虎と龍が見え、その口からは音立てて水が吐き出されている。趣味の悪い空間だった。


 その二体の間の階段から、悪魔憑きが降りてきた。


「無傷じゃないか役立たずどもめが……ああイラつく」


 眉間にしわを寄せる悪魔憑きの、その額に向けて弾丸が撃ち込まれるが、何かに弾かれる音とともに弾丸が反れ、壁に穴を開けた。その穴をみて、悪魔憑きは舌打ちした。


「壁が傷ついた……ああイラつく……!!」

「こいつは私が引き受ける。キミは早く真理矢を!」

「でも……」

「色々と決着をつけるんだろう? エスコートは任せたまえ!」


 ルディは手にした狼の銃を乱射し、苛立つ悪魔に続けて銃弾を撃ち込んだ。とめどない弾幕に悪魔憑きは再び舌打ちし、階段から飛び降り姿を消した。ルディは周囲を警戒しながら、くいと顎を動かして紫陽に先に行くよう促した。


 紫陽は頷いて階段を駆け上がった。その彼女に向けて針のようなものが数発撃ち込まれたが、その全てをルディが撃ち落とした。銃声と針を弾く金属音、小さく聞こえた舌打ちを背に、紫陽は階段を上り切り奥へと進んでいく。


「……はぁ、はあ……っ!」


 薄暗い廊下を進む紫陽は、自分の息が荒くなっている事に気が付いた。


 ここは、あの日通った場所だ。

 走って走って、この先の扉を開けたんだ。

 そしたら、蝶華が死んでいた。


 何が起きたのか分からなかった。

 でも私は間に合わなかった、それだけは分かる。

 そうやって、蝶華も、禹夏も失った。


 悪魔の子は、何も得られない。

 そう思ってた。

 でも、私はまた得る事ができた。


 かけがえのない仲間を。

 何人も殺して来た悪魔の子にはもったいないほどの友達を。

 私はまた得ることができた。


(…………)


 紫陽は突き当りの扉の前で立ち止まった。絢爛豪華な扉には金色で『VIP席』と表記されていた。この奥に、禹夏と真理矢が居る。紫陽は息を整え、その扉の前に立った。


(……私は、もう何も失いたくない)


 紫陽はゆっくりと、その扉を開いた。


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