笑い声
四人は暗く湿った通路を進んでいく。
コンクリートそのままの通路を、四人は臆することなく、油断することもなく奥へ進んでいく。途中に見張りはなく、途中途中の小部屋にも人影はなかった。不自然なほどに人の気配がなかった。
そのうちに、廊下に漂うカビの臭いを上書きするように、血の臭いが漂い始める。すると、奥から粘ついた邪気が感じられた。それも、何十もの気配。まとわりつく気配を押し退けるように進んでいると、頭上に取り付けられたスピーカーが鳴った。
『いやはや、まさか普通に入ってくるとはね』
声の主は禹夏だった。
瞬間、紫陽の体が怒りで震えあがる。
『相も変わらず考えなしね、八仙。罠でもあったらどうするつもり? まあ、そんなものはないのだけれど』
音割れした禹夏の声が通路に響き渡る。
『さて、せっかくのゲストだ。VIP席までお越し願えるかな? ああひとつだけ注意だ。堪え性のない奴が2人ほどそっちに向かった。申し訳ないが、どなたかお相手をお願いできるだろうか』
禹夏は一方的にそれだけ言うと『それでは』と言い、それきり声はしなくなった。少しの間身構えていた四人だったが、やがて歩み始めた。
「さっきの口ぶりじゃ罠はねえのか?」
「どうだろうね、油断させるのが目的かもしれない」
「……それは、ない」
「あはは~☆ なんで~?」
「……こういう時、あいつは嘘はつかない」
「だが、キミの友人を騙して殺したんだろう?」
「……それは、そう」
「まあいいだろ、ここでウダウダ話しててもしかたねえ」
千晴の言葉に賛同し、四人は前方へと歩を進める。
長い通路が終わると、大きく開けた空間が現れた。
そこは、巨大な牢獄だった。
大きな部屋は四層に別れ、金属製の格子で隔てられた部屋が、壁面にびっしりと設置されている。囚人を捕えておく大監獄といった風体だった。百に届く人数が収容できるであろう。だが、そこは監獄というより動物の檻だった。檻の中にあるのは粗末なベッドと、布団替わりであろう赤茶けた布、そしてさび付いた裸電球のみである。中に入った者と外界を断絶する、妙に新しい鉄格子ばかりが裸電球の光に照らされている
「……ウゥ、う……!」
「あはは~☆ ツラい? 大丈夫?」
俯き、呻いた紫陽の背中を、きらりがさすった。ここは紫陽にとっては思い出したくもない場所だ。繋がれ、飼われていた。同じ境遇の仲間たちを殺した記憶が、罪悪感が湧き出てくる。しかし、数秒後には深く、獣のような大きな息を吐いて気を落ち着かせた。
ここで折れている場合ではない。真理矢を助けに行かねばならない。そう気を取り直して紫陽は体を持ち上げ、介抱してくれたきらりにお礼を言おうと傍らに立つ彼女に顔を向けた。
だが、そこにきらりはいなかった。
代わりに聞こえたのは、何かが吹き飛ぶ音。
その何かが鉄格子にぶつかる耳障りな金属音。
「――――ッ! きらり!!!」
そして、聞こえる笑い声。
「あ~~~~っひゃひゃひゃ!!!」