赤錆の扉
立ち並ぶ廃墟の間を、紫陽たちは駆けていた。
彼女たちの顔は皆、一様に険しい。行く先で相手にするのは、自分たちと同格の悪魔憑き。それらが蠢きひしめく死地へと向かっている。これから始まる死闘の予感に、皆声も発さず廃墟から廃墟へと飛び、足を進める。
彼女たちの張り詰めた空気とは裏腹に、空は雲一つない青空であった。だが、そのすがすがしい青色に気を向ける者はいなかった。進めば進むほど、全身が重たくなるような空気に、空の事など気にしている余裕はない。
「……ついた」
先頭を走っていた紫陽は路地裏で足を止め、雑居ビルの前に立った。彼女の前方には赤錆だらけ鉄の扉があった。血のような錆び覆われた扉の先に、敵の本拠地がある。仲間たちは彼女の周りに集まるようにして、その扉を見た。
「ずいぶんすんなり着いたな」
「妙だね、一度か二度の小競り合いくらいは覚悟していたけれど」
「あはは~☆ もしかして罠~?」
紫陽は仲間の言葉に答えずに、前方の鉄扉をその爪で切り裂いた。その向こう側には暗闇があった。快晴の陽の光が手前の部分を照らし、地下へと続く階段があることは分かった。切り裂かれた扉の一部が落ちていく音が、少しづつ小さくなり、やがて聞こえなくなった。
「……罠でもなんでも、行かなきゃ助けられない」
「まあ、そりゃ確かに」
「だが何の作戦もなしに飛び込むのはいけないだろう」
「あはは~☆ まずこの中ってどうなってるの~?」
「……覚えてる限り、説明する」
ここは裏口であり、捕らえられた悪魔憑きが搬入される通路。故に長い階段の後に無機質な廊下が続いており、悪魔憑きたちを閉じ込めておく牢屋に到着する。そこからは道は二つに分かれ、闘技場とVIP席につながっている、という構造だと紫陽は説明した。
「……たぶん、VIP席に真理矢はいると思う」
「ならば目指すべきはVIP席だね」
「ま、そこは臨機応変にいこうぜ」
「その言葉意味わかって使ってるか?」
「あ? 当たり前だろが。状況に応じて見つけたやつらを片っ端から倒せばいんだろ?」
「もうお前はそれでいい。紫陽は先に立って案内してくるかな」
「……わかった」
「あはは~☆ それじゃあれっつご~☆」
四人は、光の届かない暗闇の中へと足を踏み入れた。