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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~四凶と八仙花~ 編
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未来の話

「しかし、面白いね。魔素と聖素がぴったり半々か……」


 禹夏は立ちあがり私に歩み寄って来た。こちらを見下ろし「人間に戻ってみてよ」と笑いかけてきた。とってつけたような笑みには喜色はなく、ただ不気味な印象を受けるだけだった。

 私がなにも応えないでいると、突然腹部に何かかが突き刺さるような痛みが走った。腹から来た痛みが喉元まで上って来たところで私は「うぐっ」と声を出した。そんな者で痛みが逃げるわけもなく、腹部に熱を帯びた痛みが残った。


禹夏に蹴られたのだ。


「ほら、早くしなよ」


 逆らってもどうにもできない。私は痛む腹に軽く力を入れて人間の姿に戻った。ほとんど全裸の私に向けて禹夏はしゃがみこみながら「ふうん」と声を漏らした。私の顔から首へ、胸へ、腰へ。全身をゆっくりと見回し、「ゴブリンに戻ってみて」とまた薄い笑顔で言った。その言葉に従い、ゴブリンの姿に戻る。


「気分はどうかな?」

「……最悪以外にあると思うんですか?」


 精一杯にらみながらそう言うと「それは確かに」と禹夏は笑い、すぐにその笑顔を消した。床の私を見下ろすその瞳の色はどこかで見たことがある。そう、ハカセが研究をしている時のような、そんな瞳だ。


「なるほど珍しいね、悪魔憑きは姿を変えると大抵は理性を失うか極端に薄くなる。でも君はこうして私と人間体の時と変わらず話ができる……うん、興味深い」


 禹夏はまたわざとらしい笑みに戻り、まだ騒いでいる三人に椅子を持ってくるように指示を出した。ニタニタ笑った小柄な悪魔憑きがさっきまで禹夏が座っていた椅子を運んできて、禹夏はそれに腰掛けた。


「どちらにせよ化け物。貴女も私たちも人間社会には溶け込めない」

「……いきなりなに?」

「私たちの力は強すぎる、だから人間たちに恐れられる。そうだよね?」

「私たちは違う、アナタたちみたいにむやみに暴力を振るったりしない!」


 禹夏は足を組み「ほほう」と呟き、


「じゃあキミたちは人間社会に溶け込んでいると、だったらなんでキミたちはあんな場所に住んでいる? 確か、デビルバニーだっけ? 悪魔憑きや悪魔が出る区画のすぐ近くだ。あんな場所にまともな人間は住み着かない、でしょう?」


 突然の問いに「そんなの私たちの勝手でしょ」と答えると、禹夏はまた張り付いたような笑みを浮かべ「そうだね、確かにそうだ」と頷いた。


「キミたちが魔屍画を排したことによってあの場所もずいぶん安全になったそうだ。きっとそこにはたくさんの人間が集まるよ? そのときキミたちはどうなるかな。そう、たぶんきっと、追い出される」

「さっきから何を話してるの?」

「未来の話だよ。私たち悪魔憑きは力が強すぎる。そして、大概がああして気が触れる」


 禹夏は顎で三人の悪魔憑きの方を指した。


「だから迫害される。人間たちは私たちを認めない、私たち悪魔憑きの方が優れているのにだよ。それっておかしなことだと思わない?」

「……悪魔憑きを仲間だって認めてくれる人たちもいる。それに、聖歌隊だって悪魔つきを認めて部隊として――」

「あんなのはただの弾除け、使い捨てじゃないか。本気で聖歌隊が悪魔憑きを仲間だと思っているのかい?」


 私はお姉ちゃんたち聖歌隊の様子を思い出してしまった。牛窪はかつて私たちと戦った相手だ、多少警戒するのは当然だ。でも、あの時の聖歌隊の皆の表情は明らかにそれ以上の感情があった。お姉ちゃんはまだしも、聖歌隊の中には悪魔憑きを受け入れない人も当然いるだろう。黙ってしまった私に、禹夏はまた笑顔を向ける。


「だから私は――蝶華の理想を実現する。悪魔憑きたちを解放する!」


 何を言っているのか分からなかった。自分で殺した相手の理想をそのまま実現すると宣うなんて、明らかにおかしい。気が触れているのは、あの三人だけじゃない。禹夏も――この悪魔憑きもまともじゃない。


「悪魔憑きたちを解放するのが、アンタの目的なの?」

「ああ、そうだとも」

「だったら……なんで蝶華さんを殺したんだ!」


 同じ目的ならば、殺す必要なんてなかったはずだ。花牙爪さんの大切な人を殺す必要はなかった。今もこうして悪魔憑きたちを殺し合わせる必要だってないはずだ。禹夏は私の心情を見透かしたように薄い笑みを浮かべ、

 

「その理由は……後で『あいつ』が来てから話そう」


 いったい何の話だと思ううちに、禹夏は立ちあがり大声を張り上げた。


「お前たち戦闘準備だ! ゲストを四名お迎えしろ!」


 禹夏の号令に、三人の悪魔憑きは瞬時にその姿を消した。階下もにわかに騒がしくなり、その喧騒は何十もの悪魔憑きがここにいることを伝えていた。そしてその一人一人が、ここでの殺し合いの生き残りだ。

 四名……もしかしなくても花牙爪さんたちだろう。私を助けに来てくれたんだ。でも、大勢の悪魔憑きたちを相手に勝てるのだろうか。なにか、何か私にできることはないだろうか。


 何も思い浮かばない私を見下ろし、禹夏は薄笑いを浮かべていた。


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