糸切れ人形
「おい! 無事か!!」
階段を駆け上がって来た千晴は、血まみれで倒れる紫陽を見つけて駆け寄った。千晴の周囲に銃口を向け警戒しながらルディもそれに続き、きらりも紫陽の姿をみて一瞬立ち止まり、慌てて駆け寄った。
「……あ、う……」
「ひでえ傷だ、いったい何があった」
そう言う千晴も無傷ではなく、他の二人も含め軽傷とは言えない状態だった。
「ハカセに連絡しないと!」
「今やる!」
きらりの言葉に、ルディは銃を小型のものに変えて周囲を警戒しながら、通信機で連絡を取り始めた。きらりは泣きそうな顔で紫陽の額から流れる血を拭い続けていた。
「……ま、ぁ」
「なに? どうかしたの?」
「……まり、や……っ」
紫陽はかすれ声をしぼり出しながら、禹夏たちが去って行った方向へ向けて腕を、爪を伸ばした。千晴たちは周囲を見回し、真理矢が居ない事に気が付いた。千晴は小さく舌打ちし、きらりは紫陽が腕を伸ばす先を見ては、紫陽に視線を戻すを繰り返した。
「クソ、マジかよ……!」
「……まり、や……わたし、が……」
「動いちゃ駄目、傷がひらくよ」
ぶるぶると震えながら腕を伸ばす紫陽だったが、突如糸が切れた人形のように床に倒れ伏した。