その①
「うぎゃああああアアアアオオオオオオッ!!!」
ゴブリンの喉から雄叫びのような悲鳴が轟いた。外から見たら雄叫びを上げながら落下していくゴブリン。なんの悲壮感もない。ファンタジー戦記のありがちなシーンでしかないよ。
私だって「きゃー」とか「いやー」とかいう声が出るもんだと思ってたさ。でも現実はこんなもんだよ、建物の屋上から落ちたらこんな悲鳴出るよ。元の姿だってこんな悲鳴上げてたにちがいない。こんなにしっくりきてるのは見た目がゴブリンだからだ。
地面にぶつかる、そう思った瞬間に体にかかる重力が消え、ふわりと体が浮いた。気が付けば、私は誰かの腕の中にいた。お姫様抱っこみたいな格好になっている、ゴブリンが。
「これは大変だ、天使が降りて来たよ」
私を受け止めてくれた人は、恥ずかしげもなくそう言うと、十メートルはあろうかという高さから何でもないように着地した。
「やれやれ、天国は大騒ぎだ。こんな可愛らしい天使が堕ちてきてしまったんだもの」
「私の見た目的には地獄の方が似合ってそうですけど」
「地獄? だったらもっと大騒ぎだ。地獄は数少ない美しいものを、こうして私に取られてしまったんだからね」
歯の浮くようなセリフとはこのことか。
でもね皆さん、顔の良い人にハスキーボイスで言われてごらんなさい。
乙女の部分がきゅんとしちゃうから。
まあ今の私はゴブリンだけど。
「さ、お姫様は安全なところに居てください。危ないし、隣に居られると君ばかりが気になって集中できないんだ」
そんな台詞を言われながら、手の甲にキスなんてされたらもう茹ダコみたいになってしまいます。
タコじゃなくてゴブリンですけど。
「ふふ、照れてるの? 可愛いね……」
突然、目の前のコンクリートが砕かれる。屋上から獣型の悪魔憑きが降ってきたのだ。突然の轟音に私は「オォオン!!」と悲鳴をあげた。どこがお姫様だ。私を抱きかかえていた女性は、小さくため息を吐くと私をその場におろし、背負った銃を引き抜いた。
「やれやれ、人の恋路を邪魔するとろくな死に方しないよ」
そう言って彼女は――王狼ルディは銃を構えた。