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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~四凶と八仙花~ 編
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二人の異形

 金属音、後に火花。


 花牙爪さんと爪の悪魔憑きは一瞬のうちに互いの間合いを詰めていた。

 私が気が付いた時には二人は互いの獲物を振りぬいていた。

 鋭利な爪が擦れ合い、耳障りな金属音が鳴り響く。


 ひときわ大きく擦れ合う音と同時に火花が天井まで散り上がる。

 相手の爪を切り上げ、崩れた防御の隙間を突くように爪を突き出す。

 爪の悪魔憑きはすぐさま爪を振り下ろし、花牙爪さんのそれを叩きそらした。


 爪を振り、防ぎ、突き出し、いなす。

 二人は言葉もないまま互いの獲物を相手に振るう。

一進一退、同じ姿の悪魔憑きたちは、同じだけの力を持っていた。

 

「…………ッ!!」


 幾度目かの大きな火花が散り、二人は距離を取った。

 私のすぐ横に飛び退いた花牙爪さんは肩で息をしていた。

 相手も同じようで、互いに呼吸を整えているようだった。


 大きな窓の際に爪の悪魔が移動したお陰で、その姿を見る事が出来た。

 確かに花牙爪さんにそっくりだが、爪の形や髪の跳ね方など細かな部分が違う。

 それになにより、瞳が違う。


 花牙爪さんはあんな虚ろな瞳をしていない。


 姿かたちは似ていても、全く異なる存在だという事をその視線から感じる。

 この悪魔憑きは、私たちに向けて何の感情も持っていない。

 ただ、目の前に現れたから排除する。そんな機械的なものしか受け取れない。


「…………」


 花牙爪さんは鋭利な爪で、懐から器用にカプセルのようなものを取り出した。

 おそらく、私の血肉が入ったものだろう。

 覚醒しないと勝てないほどの相手、ということなのか。


「……真理矢、離れてて」

「もう離れてます!!」


 既にゴブリンは丸テーブルの陰にきちんと移動しています。

 避難済みの私を見て、花牙爪さんは少しだけ笑った。

 そして、次の瞬間私の視界から消えていた。


 何かが壊れる音と共に、薄闇に土煙が舞い上がる。

 花牙爪さんが立っていた場所には、爪の悪魔憑きがいた。

 悪魔憑きの爪からは、血が滴っている。


 あれは、花牙爪さんの血か。


 ぎょろり、と悪魔憑きの視線がこちらを向いたのが分かった。

 薄闇で視覚的に見て取ったわけじゃないけど、感覚で分かった。

 混じりけなく向けれられた殺意に、身動きが取れなくなる。


 花牙爪さんは無事なのか――。


 という思考が結ばれる前に、今度は爪の悪魔憑きが吹き飛んだ。

 いや、正しくは突撃してきた何かに突き飛ばされ、轟音と共に壁を突き破った。

 その何かは当然――。


「花牙爪さん!!」


 花牙爪さんは四足の獣形態へ変貌していた。

 口は腹部までばっくりと開き、棘の様な牙がびっしりと並んでいる。

 腕である大爪は前足のようになって巨体を支えている。


「グウゥルルルル……!!」


 四足形態の花牙爪さんは吹き飛ばした先に向けて低く唸った。

 猛獣の唸りのような声に気おされながらも、その視線の先を見て私は驚愕した。

 爪の悪魔憑きが立ちあがってこちらを見ていた。


 立ち上がったことに驚いたのではない。

 その姿が、花牙爪さんと同じく変貌していたからだ。

 ただ、その変形した姿は花牙爪さんとは違っていた。


 花牙爪さんが四足に対し爪の悪魔憑きは二足歩行のままだ。

 その点では花牙爪さんよりも人間に近いと言えるかもしれない。

 けれども、その異形の姿は人間とはかけ離れた生き物だ。


 黒ずんで膨張した上半身が衣服を突き破り、筋肉の鎧を形成している。

 肥大化し黒く引き絞られたそれは、もはや生物からかけ離れたものだ。

 牛窪よりも、下で倒した不気味な悪魔憑きよりも、更に堅牢な巨躯。


 そして、更に大きく鋭利に伸びた爪が、稲光を受けて不気味に光った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 真理矢は自分の血だけでなく 頭も優秀素材だってことに そろそろ気を配らなきゃ。 花爪牙さんが固いものを 投げながら真理矢を ロックオンする前にw
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