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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~四凶と八仙花~ 編
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瓜二つ

「来るぞ! かわせ!!」


 牛窪の言葉通り、巨体の悪魔はこちらに突っ込んできた。

 私は牛窪に言われた通り、横っ飛びにかわした。

 だけど、花牙爪さんはその突進を正面から受けた。


「…………」

「ッ! 花牙爪さん!!」

「ウゥアアアアア!!」


 悪魔憑きは乳児のわめきに似た意味の無い叫びをまき散らし、全身に力を込めた。

 筋肉が赤く膨れあがり、太い馬の脚が地面にめり込む。

 ――が、花牙爪さんを押し飛ばすことはできなかった。


「アァウゥ――!」


 反対に花牙爪さんが赤体の悪魔の巨体を蹴飛ばした。

 僅かに体が離れた隙に両の爪を赤い体に突き立てたが、皮膚に止められた。

 そう思った瞬間、花牙爪さんが更に踏み込み、爪が貫通し血が飛沫く。


「ァアアァア!!!!」


 赤体の悪魔憑きは泣きわめく赤子のような、神経を削り取る金切り声をあげた。

 花牙爪さんは何の反応もないまま、悪魔憑きに突き刺さった両腕に力を込める。

 更にけたたましくわめく悪魔憑きに構わず、更に力を込める。


 滴り噴き出す赤い血潮、引き裂かれるた皮と肉の内から、へし折れる骨の音が聞こえる。

 それらに悪魔憑きの赤子のような悲鳴が混じり、それが数秒続いた。

 そのまま花牙爪さんは、赤体の悪魔憑きの上半身を真ん中から左右に引き裂いた。


 正気を保つのにやっとだった私に比べ、血だるまの花牙爪さんは眉一つ動かさない。


「………ッ」


 花牙爪さんの戦い方を見て、私は背筋に寒気を感じた。

 容赦なく相手を切り裂く彼女の戦い方は獣……悪魔そのものだ。

 何度も見てきたはずなのに、妙に恐ろしいものに見えた。


 普段の、のほほんとして、食いしん坊な花牙爪さん。

 今の容赦なく敵を切り捨てその血を浴びる事も厭わない花牙爪さん。

 どちらが、本当の彼女なのだろう。


 ぽつり、とゴブリンの禿げ頭に雨が当たった。

 それを契機に、私はようやく動くことができた。

 私が立ちあがると同時に、周囲から悪魔憑きが何十と飛び出した。


「……まだ居る?」 


 構えを取る花牙爪さんに飛びかかる悪魔憑きを、牛窪が殴りつけた。

 殴られた悪魔憑きの顔面はひしゃげ、通路挟んだ反対側の建物まで吹き飛んだ。

 そして、牛窪は花牙爪さんの前に立つように移動して、 


「ここは俺がやる……」

「きゅ、急に何を?」

「さっきの気色悪い野郎に相当やられた。この様じゃアイツは倒せねえ」


 確かに牛窪はかなりのダメージを負っているように見えた。


「だから雑魚は俺に任せて、お前らが中に居る爪の野郎を殺せ」

「……私は信じないんじゃないの」

「それしかねえんだ、この騒ぎで逃げられるかもしんねえ!!」


 牛窪は悪魔憑きが突き出した槍のような触手を掴んで引きちぎった。

 うめき声をあげる悪魔憑きを引き寄せ、頭蓋を叩き潰した。

 ぐぽ、と潰れた頭から拳を引き上げ牛窪は花牙爪さんを睨み上げた。


「逃げられるぞ、とっとと行かねえか!」

「……お言葉に甘えて」


 小さくそれだけ言うと、花牙爪さんはレストランの中へ飛び込んだ。


「必ずブッ殺してこい!!」


 牛窪は私にそう言って、無数の悪魔憑きの前に飛び出していった。

 私は牛窪の背中から視線を外し、花牙爪さんの後を追った。

 おそらくもう少しで千晴さんやお姉ちゃんも来る。彼なら大丈夫だ。


「花牙爪さん、待ってください!!」

「……ここは危険」

「だからですよ! いざとなったら私の血を!!」


 僅かな光すら満足に届かない店内を走って花牙爪さんと一緒に進む。

 1階には誰もおらず、2階も静かなものだった。

 外の戦いの音と、近づいてきた雷鳴ばかりが鼓膜を僅かに揺らす。


 ほんのすこし緊張がゆるみかけたまま、3階に向かった。

 

 そこは大きなホールのようになっていた。

 大きな円テーブルや華美な装飾が施された椅子が埃をかぶっている。

 頭上には簡素なシャンデリア、中心に円状のバーカウンターも見える。


 かつてはここで大勢の観光客が一堂に会して食事をとっていたのだろう。

 だけど、今ここに居るのは私と花牙爪さん。

 そして、あと一人――。


 ――そこには、花牙爪さんと瓜二つの悪魔憑きがいた。 


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― 新着の感想 ―
[良い点] ここは俺が食い止める キタ━━(°▽°)━━!! ※1 個人の決意です ※2 状況により、食い止め きれない場合があります [一言] 牛窪はそれらしく 使い捨てても大丈夫ですwww そ…
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