造られた悪魔憑き
「援護してくれ!!」
千晴さんが叫ぶと同時に、ルディさんが引き金を引く。
放たれた弾丸が千晴さんと鍔迫り合う悪魔憑きの脳天を貫く。
悪魔憑きは飛び退いた千晴さんに向けて二度三度剣を振り、ようやく倒れた。
戦況は、思っていたよりこちら側が不利だった。
聖歌隊の元へたたどり着いた時には、既に何名か負傷しているようだった。
私は怪我した人を治療し(鼻血がでた)、皆は聖歌隊に加勢した。
その強さは今までの悪魔憑きたちとは違っていた。
「あはは~☆ やり辛いね~☆」
「……連携攻撃」
いままで徒党を組んでいた悪魔憑きは沢山居た。
初めて千晴さんと言った悪魔狩りでもそうだった。
でもあの時は、千晴さんの相手になるのは敵のボスくらいだった。
だけど、ここにいる悪魔憑きたちはレベルが違う。
個々の強さもそうだけれど、数人で連携してこちらを攻めてくる。
ここまで統率が取れた動きをする悪魔憑きの集団には会ったことがない。
対して、こちらは連携が取れているとは言い難い。
聖歌隊は聖歌隊で、千晴さんたちは千晴さんたちで取れては居る。
けれども、お互いが効率よく動けているようには思えない。
周囲の聖歌隊に指示を出しながら、お姉ちゃんが駆け寄ってくる。
その前に二体の悪魔憑きが飛び出す。
コウモリのような羽根を持った者と、火のついたネズミのような悪魔憑き。
「くそ! 埒が、明かないッ!!」
飛びかかって来たコウモリの悪魔憑きを斬り伏せ、お姉ちゃんが苛立たし気に呟く。
そのうちに、姿勢を低くした火ネズミの悪魔憑きが滑るように距離を詰めてくる。
私が声をあげる前に青白い剣線が下から上へと薙ぎ、悪魔憑きの頭が飛んだ。
「あそこに目標が居るというのに……!!」
私と負傷した仲間を守るように立ち、お姉ちゃんは歯を噛み締めた。
「あそこって、どこの建物なの!?」
「この通路をまっすぐ行ったところだ、噴水の奥の緑の……」
お姉ちゃんの言葉を待たずに、花牙爪さんが駆け出した。
襲い来る悪魔憑きを両の爪で切り裂き、血飛沫を浴びながら猛進する。
その姿を見て、私の体は勝手に動き出した。
背後から聞こえたお姉ちゃんの声に「大丈夫!」と大声で返す。
それがいけなかったのか、私の前方に悪魔憑きが立ちふさがった。
「あ……」
その悪魔憑きは人の形はしていたけれど、目の光が異常だった。
ギラギラとねばつく視線でこちらを見下ろしてくる。
その両手には、刀身が反った剣が握られていた。
その剣が横に揃えられ、私の首目掛けて降りぬかれる。
「うおおおっ!!??」
襲い来る曲剣を、私は咄嗟にゴブリンの姿になってかわした。
私の首を捉えるはずだった剣は空を切り、悪魔憑きはよろけた。
悪魔憑きが体勢を立て直す前に、その喉に風穴が空いた。
「気を付けて!」
暗くてよく見えないけど、この声はルディさんだ。
いま悪魔憑きを撃ちぬいたのも彼女だろう。
私は戦いに戻っていくルディさんにお礼を叫んでから、駆け出した。
前方に見えるのはレストランだろうか。
デフォルメされた西洋風建造物、三階建てだろうか。
そこに向けて駆けていく花牙爪さんを追う。
前方の彼女に繰り返し悪魔憑きが襲い掛かるが、相手にならない。
一度か二度攻撃をするが防御するか躱され、切り裂かれておしまいだ。
後方を走る私は、その血飛沫を浴びないよう必死だった。
「はぁっ、はぁ……ぶっ!!」
私はいつの間にか立ち止まった花牙爪さんの体に突っ込んでしまった。
べっとりとついた血や肉片の一部が、私にまでこびり付く。
情けない悲鳴をあげながら、私はそれらを払い落した。
「花牙爪さん、一体どうし――」
「――ぐぉっ!!」
レストランの入り口を破壊しながら、何かが転げ出てきた。
土煙の中で立ち上がったのは黒い肌の筋肉質の男――牛窪だ。
体は傷だらけで、片方の角が折れてしまっていた。
「だ、大丈夫……?」
「クソが……!!」
毒づく牛窪の正面、煙の向こうの建物の中からもう一体の悪魔憑きが姿を現した。
牛窪よりもさらに一回り大きな筋肉質の体は、赤黒い異色の肌。
下半身も見るからに強靭で、太く鍛え抜かれた馬のようだった。
「――アァアアア!!!」
赤体の悪魔憑きは、牛窪と私たちに向けて威嚇の叫び声をあげた。
その声は巨体に似つかわしくない、赤子のような声だった。
不釣り合いな声と容姿が、その悪魔の異常さを表していた。
これが、花牙爪さんの言っていた造られた悪魔憑きなのか。