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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~四凶と八仙花~ 編
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私の親友を

 突然の事に、面食らって即座に反応できなかった。


 花牙爪さんがここまで感情を顕わにしたのを見たのは初めてだ。

 ハカセたちも同じだったようで、皆が驚きの表情を浮かべていた。

 背後で、聖歌隊たちが武器を展開させる音で、私は正気に戻った。


「か、花牙爪さん! どうしたんですか!?」


 私が叫ぶと、花牙爪さんはハッと我に返ったようだった。

 擦り合わせていた爪を下げ、開きかけていた口も大人しくなった。

 ほっと安堵した私の肩に手を置き、お姉ちゃんが前に出る。


「何か犯人について知っているのだな?」

「……たぶん、わかる」

「そりゃいい、一体誰なんだ?」


 牛窪が「教えろよ」と言うと、花牙爪さんは視線を泳がせた。


「……でも、違うかも」

「おいおい、あんだけ殺気ばら撒いといてそりゃねえぜ」

「…………」

「何か隠してんのか?」


 低い声でそう言うと、牛窪は花牙爪さんに近寄ろうと一歩前に出た。

 その前に、千晴さんが立ちふさがる。

 腰に下げた刀には手がかけられている。


「紫陽になにするつもりだ」

「なにもしねえよ、ただ情報が欲しいだけだ」

「だったら近寄んじゃねえ、そこで聞け」


 千晴さんが静かに、けれども鋭く言い放つ。

 牛窪は見下ろすように千晴さんを睨みつけた。

 彼の隆々とした筋肉が動くのが、装備の上からでも分かった。


「こいつが話さねえんだろうが」

「本当に知らねえかもしれねえだろ」

「さっきの反応見てなかったのか、名前まで言った。知らねえわけねえだろ」


 私には、牛窪の言い分が正しいように思えた。

 確かに、花牙爪さんは誰かの名前を言った。

 そしてあの、見たこともないような荒々しい気配。


 千晴さんもそう思ったのか、視線を牛窪から花牙爪さんに移した。


「紫陽、何か知ってるなら話してくれ」

「う……」

「私からもお願いします。何か力になれるかも……」

 

 そう言う私に顔を向けた花牙爪さんだったけれど、すぐに視線を逸らした。

 巨大な爪を指と指を合わせるように胸の前に持ってきた。

 爪とカチカチと合わせながら、うつむいて言葉を探しているようだった。


 先を促そうと口を開きかけた牛窪を視線で止めて、私たちは待った。

 何も言葉が出てこないまま、十秒ほど待っただろうか。

うつむいていた花牙爪さんが、ようやく口を開いた。


「……絶対じゃない、でもたぶん、禹夏(うか)、だと思う。バーシェンはきっと……禹夏の仲間……そう――」


 花牙爪さんは顔を上げ、小さく呟いた。


「――私のこと」


 言葉通りの意味ではないだろう。

 私は花牙爪さんに「どういうことですか」と質問を重ねた。 

 花牙爪さんは言葉を探すように視線を左右に動かし、


「……バーシェンは、たぶんこう書く」


 花牙爪さんは爪で近くの壁を削り、『八仙』と書いた。

 見覚えのない漢字に私は首を傾げた。

 この漢字と花牙爪さんに一体何の繋がりがあるんだろうか。


 ……というか壁にどでかい傷がついちゃったんですが。


「これは……私の元の名前」

「あはは~☆ 元の名前~?」

「……私の元の名前は八仙(バーシェン)、なの。八仙花、中国名で紫陽花(あじさい)のこと……」

「それで紫陽って名前を……」

「お前の名前はどうでもいい!!」


 牛窪が苛立たし気に頭を掻いた。


「そのバーシェンってのは結局お前なのかそうじゃねえのか、どっちなんだ!」

「……この男の肩を持つわけではないが、その辺りを先に聞きたい」


 牛窪を手で制しながらも、お姉ちゃんは厳しい声で言った。

 確かに、今大事なところはそこではない。

 私たちの視線を受けて、花牙爪さんは頷いた。


「……それは……私じゃない、たぶん私の代わり」

「代わりだって?」

「……私たちは……いや、禹夏(うか)は作ろうとしてた、悪魔憑きの軍を」

「だったらお前さんらと変わらんな」


 ハカセがお姉ちゃんをカップで指しながら笑った。

 お姉ちゃんは眉根を寄せてハカセを見たけれど、何も言わなかった。

 ぴりぴりとした空気が嫌で、私はふと気になったことを口に出した。


「あの、花牙爪さん。今、私たち(・・)って言いましたけど……」


 花牙爪さんは一瞬目を見開き、


「……元々は、軍じゃなかった。私たちが作りたかったのは……ただの家……悪魔憑きでも安全に、誰も殺さないで暮らせる、家……それなのに……」


 花牙爪さんの体は震えていた。

 それが怒りによるものなのか、悲しみによるものなのか。

 私にはまだ分からなかった。


「……禹夏は危険。あの子は……あいつは、危険な悪魔憑きをつくってる……」

「悪魔憑きを、造る?」

「……あいつは言ってた。自分や、私のような悪魔憑きをつくるって……」

「それで出来たのが昨日のクソ野郎ってか?」


 牛窪が吐き捨てるように言った。


「……そう、そうやって強い悪魔憑きをつくるために――」


 花牙爪さんはぎり、と拳を握るように爪を擦り合わせ、


「――私の親友を、殺した」


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― 新着の感想 ―
[良い点] 牛窪が巻こうとする巻き。 早く真実を知って 早く仇をとりたい、 焦ってる。 けど、焦ってることに 本人が気がついてない。 焦ってることに気がつかないって 周りをどんどん不快にして な…
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