禹夏
「だいぶ話がずれたが、問題ないなら本題に戻ってもらえるか?」
ハカセがコーヒーのお代わりを注ぎながら肩をすくめた。
こほん、とお姉ちゃんが咳払いをして、牛窪に話すよう促した。
牛窪は「はいよ」と答えると、その悪魔と対峙した時の事を話し始めた。
牛窪が率いる悪魔憑き部隊は、通報を受け悪魔憑きを討伐しに行った。
廃屋に潜んでいたその悪魔は、身長が高く、爪の長い女の悪魔憑きだった。
応戦し、追い詰めたと思ったら四つ足に姿を変え、襲い掛かって来たらしい。
「ありゃあハンパなかったぜ、俺も手傷を負わされた」
背が高く、爪の長い女の悪魔憑き。
そして四つ足になって戦う。
ここまでは、確かに花牙爪さんに合致する。
「俺は何とかやり過ごせたが……部下は5人もくたばっちまった」
牛窪は無念を滲ませた声で呟いた。
どうやら部下の悪魔憑きたちにちゃんと情はあったらしい。
なんだか安心した自分が居る事に気が付いた。
「それで、結局のとこどうなんだ」
「あはは~☆ そうそう~☆」
「実際見てみて、どうなんだい」
千晴さんたちに促されて、牛窪は花牙爪さんを見た。
少しの間突っ立っている花牙爪さんを見ていたが、うーんと唸った。
「似ている、かなりな」
「そんな! 花牙爪さんはそんなこと!」
「いや、だが違うと思うぜ」
「あ? どういうこった」
「なんていうか、そこのデカ女は気配がゆるすぎる」
「レディにデカ女はないんじゃないかい?」
ルディさんの言葉に反応せず、牛窪は続けた。
「あそこに居たのはもっとヤバい奴だった。悪魔憑きより悪魔に近いって感じだ」
「つまり真理矢たちは容疑者から外れるということでいいんだな」
一拍開けて牛窪が頷くと、お姉ちゃんの張り詰めた空気が緩んだのを感じた。
「それならばよかった……だが、そうなると目星が付かなくなったな」
「なんか手がかりはねえのか、仲間と疑われるような奴野放しにできねえよ」
千晴さんが言うと、私を含め皆が頷いた。
「残念ながら、殺されていた彼らのカメラは壊されていてな」
「映像もなしってわけかい」
「あはは~☆ 手がかりなしか~☆」
「いや待て、まだある。あいつ……部下が最後に言い残した言葉がある」
「なにか特徴を言っていたのかい?」
「いや、ただ一言だけ訳の分からん言葉を言い残した――」
「――お前ら『バーシェン』って聞き覚えはないか?」
瞬間、背後の空気が震えたような気がした。
反射的に振り返ると、花牙爪さんがそこには居た。
だけど、その様子は尋常ではなかった。
前進が怒りに打ち震え、見開いた目は血走っていた。
その身から沸き起こる鬼気は、長髪を浮かし、揺らめかせるほどだった。
長爪が擦り合い火花が散り、チャックを模した巨大な口がギチギチと音を立てる。
「……禹夏……っ!」