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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~四凶と八仙花~ 編
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爪の悪魔、その2

「ばぁっくッしぇん!!!」


 私は花牙爪さんのくしゃみを正面から受けた。

 くしゃみじゃないよこれは、これもうただの爆風だよ。

 首持ってかれるかと思ったよ。


「……誰か、噂してる」

「くしゃみするときは手を当てて下さいよ……」

「……手、これだから」


 花牙爪さんは爪を顔の前に持ってきてワキワキと動かした。

 魔物じみた巨大な爪が花牙爪さんの手だ。

 確かにそれではくしゃみの飛沫を押さえる事はできないだろう。


 それならそれで顔を背けるとかしてほしいけども。


「……それで、続き」

「はいはい、分かりました」


 顔をタオルで拭きつつ、日本語のテキストを広げ直す。

 今、私は花牙爪さんに日本語を教えていた。

 元々会話はできていたけど、もっとうまく話したいとお願いされたのだ。


 結構前からやっていることだけど、最近やっと効果が実感出来てきた。

 今までの花牙爪さんは単語を羅列することが多かった。

 でも、最近だときちんと文章で会話をできるようになってきた。


「えーと、今日の天気はどうですか」

「……晴れていて、気持ちいいです」

「朝ご飯はなにを食べましたか」

「……真理矢の作った、混ぜご飯とお浸し、みそ汁」

「うん、いい感じです!」

「……転轆轆地」

 

 突然四字熟語とか、ことわざを言う癖はそのままだけど。

 別にわざわざ直す必要もないからいいんだけどね。

 でもなんで急に言い出すのかは気になる。


「それじゃあ次はですね……」


 テキストのページをめくろうとした時、外が騒がしいのに気が付いた。

 ガシャガシャと機械じみた足音が重なり合って聞こえる。

 外の様子を伺おうと立ち上がった瞬間、入口の扉が開いた。


「失礼、誰か……ああ真理矢、元気かい?」


 入って来たのはお姉ちゃんだった。

 私を見るなり優しい笑顔になったけれど、すぐに表情が引き締まった。

 防具も武器も手にしているし、その背後には幾人もの聖歌隊の人が見える。


 お休みで来てくれたわけではないようだ。


 騒ぎを聞きつけ、ハカセやルディさん、きらりさんも集まってきた。

 さらに、毎朝恒例のジョギングを終えて千晴さんも帰って来た。

 荒い呼吸をする引き締まった体は、汗と……血に濡れていた。


「千晴さんどうしたんですか!?」

「心配すんな返り血だ」

「そういう問題でなく!!」

「それよか、今回はなんなんだ?」


 タオルで汗(と血)を拭きながら言う千晴さんに、お姉ちゃんは鋭い視線を向けた。


「その血は民間人のものではないだろうな?」

「あ? なんだ急に」


 一瞬で空気がひりつく。

 お姉ちゃんの語気の強さは、からかいや軽口ではなかった。

 それだけに、千晴さんも刀に手をかけんばかりの気配を漂わせていた。


「ちょ、ちょっと待って! どうしたのお姉ちゃん!」


 二人の間に割って入ると、数秒開けてお姉ちゃんは息を吐いた。

 それから眉間を指と指でぐいと押してから「すまない」と軽く頭を下げた。

 千晴さんは「別に」と言い残して着替えに行ってしまった。


「すまない、無礼な事を……」

「大丈夫、千晴さんは根に持つような人じゃないよ」

「あはは~☆ さっぱりすれば忘れるよ~☆」

「そうですよお義姉さん、気にすることはありません」

「……君の言葉は何か引っかかるんだが」

「漫才はいい。結局お前さんらは一体何しに来たんだ」


 ハカセは首をごきごき鳴らしながら言った。


「ああ、実は……聖歌隊の部隊が悪魔憑きに殺された」

「それはお悔やみ申し上げるが、それがこっちに何の関係がある」

「生き残った者の証言によると、その悪魔憑きは……」


 お姉ちゃんは言葉を止めて、視線を動かした。

 その視線を追うと、花牙爪さんへとたどり着いた。


「長い爪と長い髪を持った、巨体の悪魔憑きだったそうだ」


 花牙爪さんは大きな体を動かして立ち上がった。

 そして長く鋭い爪で自身を指し、長い髪を揺らして首を傾げた。


「……私?」


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