長爪の悪魔
長く伸びた爪が、赤い血に染まっている。
鮮血に濡れたそれは、人や獣からも外れた巨大なものだった。
その爪の持ち主は、朱色の爪を素早く振るった。
血液は爪から離れ、壁や床を飛沫となって赤く張り付いた。
爪の持ち主は虚ろな目で足元の死体を見下ろした。
地面に転がる死体は聖歌隊のようだ。
最新鋭の装備が無残に切り裂かれ、自らの血で染まっている。
4、5人の肉片が、小さな廃墟の一室に散らばっている。
その中心に、爪の悪魔が佇んでいた。
身長は2メートルほどだろうか。
長い頭髪や中華風の衣服にも血がこびり付いている。
血まみれのまま無感情に死体を見下ろし、ただそこに立っていた。
「上出来じゃない」
部屋の入口から、声が聞こえた。
扉が壊れ、枠だけになってしまったそこに、誰かが立っていた。
光の加減でその声の主の顔は見えなかったが、女のようだ。
「これなら次に進んでもいいかもね」
「……つぎ」
爪の悪魔は虚ろな視線を持ち上げ、声の主に向けた。
その声は、体躯に似合わないほど幼い声だった。
「次が最後、貴女が本物であると証明して」
「……証明」
「そう、貴女が本物の――」
「――『バーシェン』だって、ね……」