悪魔だって
なんだったんだ今のは。
窓から顔を出して下を見ると、犬の悪魔が逃げていくのが見えた。
気の毒なほど情けない声をあげて、よたよたと走り去っていく。
私が通報すると、すぐに聖歌隊の人が来て捕まえてくれた。
ゴブリンの姿のままだったから私も捕まえられそうになったけど。
そのせいで千晴さんたちも起きてしまい、更にややこしい事になってしまった。
次々に悪魔憑きが顔を出してきたのだから無理もない。
本部に連絡を入れて貰って、姉ちゃんが説明してくれた。
異動してきたばかりの新人さんで、私たちの事は知らなかったらしい。
しっかり謝ってくれたからよしとしよう。
どっと疲れたのは事実だけども。
対応を終える頃には窓から皆の姿は見えなくなっていた。
皆消耗して、休みたいだろうからしょうがない。
「あの……」
やれやれと家に戻ると、ルルちゃんがバツが悪そうに立っていた。
ロロちゃんも、スゥちゃんまでもどこか居心地が悪そうだった。
私が「どうかしたの」と尋ねると、
「みんな疲れてたから私たちでどうにかしたかったの、でも……」
「私たち役立たずなのよ……」
「……しょぼん」
なるほど、自分たちが迷惑をかけてしまったと思っているのか。
「大丈夫だよ、これくらいなんてことないよ」
「でも、よけいに疲れさせちゃったの」
「私がこの姿のままで出たのがいけなかったんだし」
「そもそも私たちだけ倒せてたらよかったのよ」
「怪我しなかっただけ良かったよ」
「……むぅう」
納得する様子の無い三人を可愛く思い、私はふっと息を吐いた。
三人は私が溜息でも吐いたと思ったようで、同時にびくりと肩を揺らした。
そうして、恐る恐る私の顔を見上げてきた。
「三人とも、ありがとう」
順番に頭を撫でてあげると三人はぽかんとして、それから笑った。
なんて可愛らしい笑顔なのだろう。
そうだ、悪魔だってこんな風に笑顔になれるんだ。
ルルちゃんたちは私たちの力になりたかったんだ。
皆の力になりたいと思った私と一緒だ。
私のこの子達、一体何が違うのだろうか。
たとえ悪魔になってもいいじゃないか。
この子達みたいに優しい悪魔もいる。
千晴さんたちみたいな、優しい悪魔憑きもいる。
反対に、悪魔のようなことをしている人間たちだっていた。
見た目は大きな問題じゃない。
だから、何も不安に思うことは無いんだ。
私は駆け寄って来た三人を抱き留め、顔を上げた。
そこには、鏡に映るゴブリンが居た。
狼三姉妹を捕らえた醜い小鬼にしか見えない。
今夜はこの子達を食べるんですか?といった感じだ。
「……やっぱ、ゴブリンは嫌だな」
また思考が元の地点に戻ってしまい、私は嘆いた。