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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
幕間~がんばれオオカミ3姉妹!~
152/208

定期健診

「よし、お疲れさん」


 ハカセの声と共に意識が覚醒してくる。

 ぼんやりとした視界の焦点が徐々に定まる。

 無機質な天井の蛍光灯が妙にまぶしく感じられた。


 私は『デビルバニー』の地下、ハカセの研究所に居た。

 定期的な採血と健診、それらはもう日常の一部だ。

 いつものように起き上がり、服を着直す。


「それで、私の体はどうなってるんですか」

「どうって健康優良大和撫子だよ」

「からかわないでください」


 私がぴしゃりと言うと、ハカセは椅子の背もたれに体を預けた。

 大きく息を吐いてからコーヒーを啜り、空いた方の手でキーボードをたたく。

 ハカセの背後の大きな画面に、私の体のレントゲン写真のようなものが映し出された。


「前よりも魔素が体に浸み込んでる。悪魔憑きになるほどではないけどな」


 やっぱりそうなのか。

 前回から比べて体の変化は少ないけど、それでも人間からは外れてきている。

 耳はとうとうエルフ耳レベルに尖り、目もなんだか変だ。


 だんだんと、悪魔に近づいて来ているみたいだ。


「魔素を集めれば元の姿に戻れるって話でしたよね?」

「嘘ついちゃいない」

「本当なんですかね」

「おいおい、信用無いのか」

「あると思ってるんですか」

「酷いじゃないか、傷ついた」


 椅子にふんぞり返ってコーヒー啜りながら言われても。


「安心しろ、ちゃんとその時が来たら人間に戻れる装置も準備してる」


 じとっとした視線をハカセに向け続けると、大きな溜息が帰って来た。

 ハカセは再びキーボードをたたき、グラフのようなものを画面に表示した。

 青い棒グラフが長く、赤の棒グラフはその半分以下だ。


「これはお前さんの中の魔素と聖素の割合を示したモンだ」

「赤い方が……?」

「魔素だ、高い方が聖素。今はだいたい3対7ってとこか」

「それがなんなんです?」


 ハカセは一度コーヒーを啜り、


「いいか、これがだいたい均等なのが人間なんだ。素行の悪い人間は魔素が5.1だの5.2だのになる。どんな猟奇的殺人者だろうが5.5ってとこだ、まず6に行くことは無い。逆もしかりだ、歴史的な聖者でも5.5。それが人間の限界だ」


 ハカセは「ま、私独自の指標だがね」と呟き、更に続ける。


「比率が5.5を超えるのが『聖女』あるいは『悪魔憑き』ってわけだ。聖歌隊の聖女たちでも聖素が6弱、今まで戦ってきた奴らも魔素がそんくらいか」

「はあ、なるほど……」

「ちなみに千晴たちは今のお前さんと同じくらいの比率だな。魔素と聖素は逆だが。紫陽は魔素が8を超えている。だからあんな風に体が変異してるわけだ」

「……それで、その比率が私にどんな関係が?」

「分からんやつだな。いま戻れる装置を使っても真人間にはなれないんだよ」


 ハカセはカップに口をつけたけど、中身が無いのかそのまま机に置いた。


「魔素と聖素がいい塩梅の時に元に戻す装置を使わないととんでもない事になる」

「と、とんでもないこと?」

「どうなるかは分からん。それこそ本当にゴブリンのままになるか、見た目は普通でもとんでもないサイコパスになるか、あるいは存在が消えるかもな」

「そ、存在が……」

「あんまり焦るな。私を信じろ」


 ハカセはそう言って、まったく信用できない微笑みを浮かべた。

 今度は私が大きな溜息を吐き、無機質で近未来的なベッドから降りた。

 出て行こうと足を動かしたところで、視界の端に気になるものが映った。


 透明で大きな管のようなもの中。

 そこに仕舞われた赤黒いキューブ状のもの。

 きらりさんが閉じ込めた群体の悪魔だ。


「まだ何かあるのか?」

「これ、何に使うつもりですか」

「前に見せた魔素プリンターあっただろ?」


 私が首をかしげると、ハカセは「おいおい」とわざとらしく手を広げた。


「ほら、きらりと初仕事行ったときくらいに見せたろ!」

「そうでしたっけ。それで、そのプリンターに使うんですか」

「その通りだ。あれで作ったとっておきの動力源にしようと思ってな」

「とっておきってなんですか」

「前にも言っただろ……? とんでもないやつさ……」

「とんでもないやつ……?」


 ハカセはニヤリと笑うと、大きく手を広げた。


「巨大ロボットだ!!」

「失礼します」


 ハカセの「えぇ?」という頓狂な声を背中で聞きながら、私は研究室を後にした。


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