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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~魍魎千蛇・跋扈~ 編
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綺麗にしまっておけばいい

 悪魔憑きと聖歌隊が、悪魔達を相手にしている。

 私たちを囲むように陣形を組み、襲い掛かる悪魔達を排除していく。


 千晴さんが刀を振るい、炎の刃を飛ばす。

 ルディさんが銃身を左右に振り、銃弾を放つ。

 花牙爪さんが駆けまわり、牙や爪を振るう。


 私はその中心、」蛙田さんといろはさんの近くでその様子を見ていた。


 群体の悪魔は個々の力はそれほどでもなく、いまのところ戦況はこちらが優勢だ。

 だけど、その数は一向に減る様子が見られない。

 一つの死体がふたつみっつと別れて再生し、その数を増やしていく。


 こんな奴らを倒す方法なんて本当にあるのだろうか。

 でも、蛙田さんは何か作戦があると言っていた。

 何の対策も思い浮かばない今は、それを信じるしかない。


 蛙田さんは悪魔のスマホに何かを打ち込み続けている。

 私といろはさんは聖歌隊の装置の陰でそれを見ている事しかできない。

 というより今は身動きが取れないのだ。


 いろはさんを狙って押し寄せる悪魔達を、皆で押し留めている状況だ。

 へたに動けば戦況を乱しかねない。

 だから何もできず、ただ待っている事しかできない。


「あの、さっきから気になっていたんですが……」

「は、はい何ですか!」

「貴女ほんとに真理矢さんなんですか?」

「……残念ながらそうです」

「い、色々ありますもんね……」


 なんか変に気を遣われてしまった。

 のんきに見えるかもしれないけど、こうでもしないと正気で居られない。

 グロい形の悪魔がひっきりなしに突っ込んでくるんだもの。


「よし……準備できた。いろは、ソレを作動させて。全開で!」


 いろはさんは震える手で聖歌隊の悪魔寄せの機械のつまみを捻った。

 すると、周りを囲んでいた悪魔達の動きが活発になる。

 先ほどまでよりも激しく内側の私たちを狙い始める。


 蛙田さんはその様子を一瞥してから、スマホをタップした。

 すると、私たちの足元が光り始めた。

 薄緑色の光が正方に形どられ、私たちを囲む。


「真理矢、ハカセに準備ができた、攻撃を止めて離れてって伝えて!」

「だ、大丈夫なんですよね!?」


 真剣な顔で頷く蛙田さんに、私も覚悟を決めて靴の通信機を起動する。

 ハカセに説明すると「大丈夫なのか」と私と同じ答えが返って来た。

 大丈夫だと伝えると、少し間を開けて私たちを囲んでいた皆が攻撃の手を緩める。


「頼んだぞきらり!!」

「では、また後で!!」

「……無病息災」


 三人がそれぞれ声をかけ、悪魔の渦から脱出する。

 それと同時に、群体の悪魔が一斉に私たちに襲い掛かってくる。

 瞬間、緑の光が強まって私たちを囲み、箱型のバリアのようになった。


「こ、ここからどうするんですか!!」

「引き付ける、一匹残らず!」


 おぞましい姿の悪魔達が、バリアの四方からびっしりと張り付いてくる。

 互いの体を押しつぶそうが構わず、私たちを殺そうと殺到している。

 蛙田さんの事は信じているけれど、この光景では動悸は自然と速まる。


「か、蛙田さん……っ」

「お姉ちゃん……!」


「――いろはに会ってから、ずっと考えてた」


 ぽつりと、蛙田さんが呟いた。

 スマホを見たまま、こちらに視線を向けることは無かった。

 周囲の異常な光景と不釣り合いな、静かな落ち着いた声だった。


「私がしたことは無かったことにはならない」

「そんなこと……」

「たとえいろはが謝ってくれても、私が父親を殺したことには変わりは無い」

「……」

「自分がしたことは消えてなくならない」

「…………」

「いろはも、私も……誰も彼もが、自分の歩いてきた足跡を消すことはできない」


 蛙田さん視線をスマホに向けたまま続ける。


「心の闇はいつも隣にいる。消えることは無い……なら、綺麗にしまっておけばいい。無くならない嫌なものは、小さくまとめて、心の奥底にしまうしかない……」


 蛙田さんは、ゆっくりと顔をこちらに向けた。


「そうすれば、少しはちゃんと笑えるはずだから」


 その顔には笑顔が浮かんでいた。

 いつものように、つかみどころが無い。

 けれども、どこか優しさを感じるような笑顔。


 次の瞬間、私はずるりと地面に吸い込まれた。

 まるで、地面が急に水になってしまったかのように。

 いろはさんも私と同じ様に吸い込まれたようだった。


 落ちていく向こう側に、蛙田さんの姿が見える。


「真理矢ありがとう。それから……いろは――」


 水面の向こう側のようにぼやけて見える蛙田さんの顔。

 その顔は、優しく笑っていた。


「――大好き」

「――ッ!!! お姉ちゃん!!!」

 

 いろはさんの叫びを遮るように、水面が閉じた。

 突然水流のようなものが発生し、私たちはどこかに運ばれる。

 数秒の後、私といろはさんは地上に吐き出された。


「おい、お前さんたちだけか」


 顔を上げると、ハカセが顔を覗き込んできていた。

 私たちだけ?

 ハッとしてさっきまで居た方角を見ると、そこには巨大な渦があった。


 醜くおぞましい悪魔達の渦。

 あの中心にさっきまで居たんだ。

 そして、そこにはまだ蛙田さんが――。


「蛙田さ……」


 私の声と同時に、緑色の四角形が地面に広がる。

 その光は先ほど私たちを守っていたものと同じだ。

 さっきと同じ様にサイコロ状になってバリアを形成する。


 違うのは、今は悪魔達を閉じ込める檻のようになっている事だ。

 内側に悪魔達も異変に気が付いたのか、外出ようとバリアに突っ込む。

 バリアに激突する音や唸り声の隙間から、蛙田さんの声が聞こえた。


籠檻骰子(キュボス)――!」



 蛙田さんの声と同時に、四角形のバリア縮み始めた。

 悪魔達は抵抗するけど、どんどんと縮まるバリアを抑えることができない。

 互いの体で互いを潰し、まともな抵抗もできなくなっていく。


 数を増やしたとしても、ただでさえ少ない容量を更に狭めるだけだった。

 これでは無限に再生・増殖できることがかえってあだになってしまっている。

 バリアは壊れることなく収縮し続け、ついに本当のサイコロのような大きさになった。


 かつんと音を立てて落ちたサイコロの中では、赤い液体が蠢いている。

 ぐじゅぐじゅと音立てて肉塊が流動するばかりで、何もできないようだ。

 群体の悪魔を、完全に封じ込めることができたんだ。


 でも、そこに蛙田さんの姿はなかった。

 まさか、蛙田さんは自分ごと――。


「蛙田さぁあん!!!!」

「なぁ~に~?」


 予想外にのん気な蛙田さんの声が、足元から聞こえた。

 びっくりして足元を見ると、黒い水溜まりのようなものがあることに気が付いた。

 これは、さっき私といろはさんを移動させたものか。


 その黒い液体から、ずるりと何かが浮き上がって来た。

 少しずつ人の形になっていき、液体はきらりさんへと姿を変えた。

 黒い液体はそのまま、彼女の悪魔のスマホへと吸い込まれていった。


「あはは~☆ うまくいったね~☆」


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