空飛ぶゴブリン 2回目
まずい、まずい。
悪魔達が再び移動を開始している。
向かう先は多くの人が居る場所だ。
このままでは大勢の人が犠牲になる。
でも私には何もできない。
蛙田さんがあんなに頑張っているのに。
なにか、なにかできる事はないか。
『おい! 真理矢!!』
突然下から声が聞こえた。
この声はハカセの声だ。
どうやら靴が通信機にもなっていたようだ。
『真理矢! 無事なら返事しろ!』
「はい! 無事です!」
『こっちはもうすぐ着く!! 状況は!』
「悪魔が移動を始めてて! 蛙田さん一人じゃ抑えきれません!」
『……仕方ない、靴のかかとの部分を見ろ! 右だ!』
言われた通りに靴のかかとを見ると、何かボタンのようなものがあった。
『その靴はお前さん用だ! それを押せばアーマーが出る!』
「なるほど、それで戦えますね!!」
『試作の上に簡易的なものだ! 無理せず足止めに専念しろ!!』
通信が切れると同時に靴のかかとのボタンを押した。
すると、靴の側面から金属の板のようなものが飛び出した。
いったいどこに収まっていたのだろうか。
金属板が音を立てながら変形し、ゴブリンの体にまとわりついてくる。
体全体が、まるでクッキーの型のように金属板でぐるりと覆われた。
その板から何か黒いゴム革のようなものが飛び出し、体を覆っていく。
多分見た目は黒い宇宙服を身に着けたゴブリンみたいになってる。
ただし、宇宙服のような丸いヘルメットはなく、頭はむき出しだ。
でもこれでいいのだろう、私の武器は今のところ頭突きしかない。
「いくぞ……!」
足に力を込め、飛び去ろうとしているその先頭の悪魔めがけて頭から突っ込んだ。
悪魔は私に反応することができず、ゴブリンの頭がもろに直撃した。
何かがバキボキ砕ける音と感触に身震いしながらも、上空で体制を立て直す。
「うわ、やば……」
悪魔達の前進は止まったものの、明らかに標的にされている感じがする。
それを証明するように、無数の悪魔が私の周りを旋回する。
異形の黒い渦が私を覆い、何も見えなくなっていく。
このままじゃまずい、脱出しなければ。
頭から渦に突っ込んだけれど、何かを押しつぶした感触と共に跳ね返された。
数匹の個体を犠牲に、私は渦の中に押し留められた。
徐々に渦が狭まってくると、周りの悪魔たちの姿に血の気が引いた。
異形の体、そのところどころから棘や刃のようなものが飛び出している。
このまま狭まればミキサーにかけられたみたいにぐちゃぐちゃにされる。
「このぉ!!」
何度か頭突きを繰り返してみるけれど、結果は変わらない。
焦りが恐怖に変わりかけた時、渦に乱れが生じた。
渦の一部を形成していた悪魔達がドロドロに溶けて落ちていく。
「あ……っ!」
「こっち!!」
私が名前を呼ぶより早く、蛙田さんの触手が私を掴んだ。
そのまま閉じかけていた渦の隙間から外へ引っ張り出された。
直後、渦が一気に閉じて鼓膜が擦り切れるような金属音が鳴り響いた。
「あ、ありがとうございます……!」
「あはは、こっちこそ」
いつもの様に張り付いた笑顔で蛙田さんは笑った。
けれど、蛙田さんの目の色は鋭かった。
私から外したその視線を上空の悪魔達に向ける。
悪魔達は私を仕留めそこなった事に気が付き、渦を解いて拡散した。
前方の地面では、溶かされた悪魔達が蠢いている。
かと思えば、溶かされた時以上の数になりまた空へ飛びあがった。
いったいどうすれば倒せるんだ。
一気に全部燃やすとか?
でも、溶かされた状態から復活する奴が燃えたくらいでやられるだろうか。
考えている暇もなく、今度は地を這う悪魔達が一斉に押し寄せる。
私たちは飛び上がり、ひとまず近くのビルの屋上へ着地した。
その間に、飛んでいる悪魔達は前進を始めようとしている。
「あはは、どうしよっか~……」
考えても考えても解決策なんて思い浮かばない。
焦りと恐怖でぐちゃぐちゃになった私の頭は、突拍子もない行動をとらせた。
私は両手を前に突き出し、声の限りに叫んだ。
「ええい! 止まれ~!!」
当然、止まるはずもなく悪魔達は保護区の方へ――
行かなかった。なぜか本当に悪魔達は動きを止めた。
なんだ、急に何かの力に覚醒してしまったのか。
いや、よく見ると悪魔達は進行方向を変えただけだ。
群体の先端が時計の針のようにゆっくりと円を描いて動く。
何かを追っているように見えた。
時計の針のように形を変えた悪魔達の先端。
そのはるか先を見ると、崩れかけた高速道路が見えた。
その上を、何かジェットスキーのような機械が走っている。
「あれは……?」
「――――っ!!」