飛び降りた蛙、空飛ぶゴブリン
次の瞬間、蛙田さんは屋上から跳ね降りた。
地面を割りながら着地すると、そのまま虫の向かう方向へ跳んでいってしまった。
咄嗟に名前を呼んだけど、何の反応もなく蛙田さんは私の視界から消えた。
「真理矢!」
名前に反応して振り向くや否や、何かが私に投げ渡された
それは、ハカセが履いていたブーツだった。
靴から視線を外してハカセを見ると、私の背後を指さし叫んだ。
「この靴貸してやる! きらりに追いつけ!」
「え、な……」
「覚醒もしてない状態であいつらと戦ってみろ、死んじまうぞ!!」
「あ……はい!!」
「待て! 真理矢にそんな危険な! だったら私が――」
「お前さんは聖歌隊の指揮をとって被害を抑えろ! じゃなきゃ大勢死ぬぞ!!」
ハカセの言葉にお姉ちゃんはハッとした。
表情を引き締め、「無茶だけはしないでくれ」と私に言って背を向けた。
それから声を張り上げ、統制の乱れた聖歌隊を整え、通信機へ向け指示を出し始めた。
私は急いでハカセの靴を履き、スイッチを入れた。
瞬間、足元で何かが爆発したような衝撃が走った。
気が付けば私は空中でぐるぐると回転していた。
びっくりしてゴブリンに戻ってしまった。
回転しながら服が弾け飛んでいく。
なんだこのカオスで汚い花火は。
「落ち着け! 空中で気を付けする感じだ! そうすりゃ安定する!!」
「そんなの分かんないですよぉおお!!」
「いいからやれ!!」
何とかしなければこのまま墜落する。
落下耐性はあるのかゴブリンは。なかったら死ぬ、
そんなマヌケな死に方は嫌だ。そもそも死にたくない!
「ふん、ぎぃいいい!!!」
私は無理やり体を動かし、回転を止めようとあがいた。
数秒後、なんとかハカセに言われた通りに気を付けの姿勢を取った。
すると回転が止まり、まっすぐに空中へとどまることができた。
気を付けをしたまま空中浮遊しているゴブリン。
マヌケでカオスなのには変わりは無い。
「前傾姿勢になれば前に進む! ゴブリン形態の頑丈さなら多少ぶつかっても平気だ!」
ふざけている場合ではない。
早く蛙田さんに追いつかなければ。
そこでふと気が付き、私は足元のハカセを見下ろした。
「皆さんの分の血は!?」
「大丈夫だ! ストックがある!」
ハカセは赤い血の入った試験管を私に振って見せた。
「だから急げ!!」
「心配すんな! 私たちもすぐ行く!!」
親指を立てる千晴さんに頷いて見せ、私はいい姿勢のまま体を前に傾けた。
「そのまま足に力を込めろ!!」
ハカセの言われた通りにすると、また爆風が靴の下から出る。
私は気をつけの姿勢のまま、ミサイルみたいに発射された。
「だわぁああああああ!!!???」
勢いを止められず、正面のビルに頭から突っ込んだ。
ぼごんぼごんと壁面を突き抜ける音と共に、脳天に走る激痛。
でも、耐えられないほどではない。
痛みなんて構うものか。
急がなければ保護区の人々が危ない。
蛙田さんが、危ない。
「うぐ……おぉおおおお!!」
私は雄たけびを上げ、廃ビルにぶつかりまくりながら、蛙田さんを追った。