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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~魍魎千蛇・跋扈~ 編
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三つ首六つ目

 崩れ落ちて行く悪魔達を前に聖歌隊の人たちの反応は様々だった。


 強力な味方だと喜ぶ人もいれば、脅威になると警戒する人もいるようだった。

 先ほどまで軍隊のように統率のとれていた聖歌隊が、明らかに動揺していた。

 あんな悪魔を一瞬で凝りしてしまったのだから、無理もない。


「全隊、集合!」


 それでも、お姉ちゃんが鋭く一声かければ、また規律を取り戻した。


「今見たように、今回の任務では心強い援軍もいる! 我々の勝利は間違いない!」


 お姉ちゃんの激励で、聖歌隊たちはまた軍隊のように前進を始めた。

 先ほどまでの動揺が嘘のように、悪魔が飛び出して来た穴を越えて――。

 穴。おかしい、悪魔の死体はどこに行った。


 お姉ちゃんや聖歌隊もそれに気が付いたのか、穴の前で足を止めた。


「もう一体の様子も見てきてくれ、誰か死体がどうなったか見たものはいるか」


 お姉ちゃんは周囲の皆を見回しながら問いかけた。

 だけど、皆首を横に振るか顔を見合わせるばかりだった。

 あの時は皆、千晴さんたちに釘付けだった。


 その中で、一人の聖歌隊の隊員が手を挙げた。


「み、見間違いかもしれないのですが」

「構わない、聞かせてくれ」

「そちらの悪魔憑き……さんが悪魔を倒したすぐ後なんですが」

「ああ、何を見たんだ」

「穴の中に引っ込んでいったんです。悪魔の死体が」

「ずり落ちただけじゃないのかね」


 空中で脚を組むハカセの言葉に、その隊員は首を振った。


「なにかこう、引っ張られたように見えました」

「そうか……反応は?」


 別の隊員が腕のデバイスからソナーのようなものを空中に投影した。

 だけど、そこには何の反応も無いように見えた。

 そのうちに、もう一体の様子を見に行っていた聖歌隊が戻って来た。


「あちらも同じです。あれだけの巨体が影も形も……」

「別にそんなビビり散らかすほどの事じゃねえだろ」


 口を開いた千晴さんに注目が集まる。


「大方、魔屍画のボスがなんかしたんだろ」

「得体が知れないが、まあいつもの事だね」

「……相手変われど主変わらず」

「あはは~☆ ささっと倒そ~☆」


 口々に言いながら、四人は先頭に立って歩き始めた。

 聖歌隊はざわめき、その背を見ているしかできないようだ。

 それも仕方のない事だろう。


 私はいつもの事だから何も感じないけど、普通はそうなるよね。

 あの人たち、ネジぶっ飛んでるよね。

 大丈夫、ゴブリンは皆さんと同じ意見です。


「ハカセ、彼女たちは向こう見ずすぎるのでは」

「まあね、でも彼女たちの意見も一理あるだろう?」

「……否定はできない」


 お姉ちゃんは一つ息を吐くと、私を見て「大丈夫かい」と笑った。

 私が頷くと頭を撫でて、それから聖歌隊に再び号令をかけた。

 三度、聖歌隊は落ち着きを取り戻して行軍を続ける。


 道中、また襲撃があったけれど、大きな被害もなく進むことができた。

 聖歌隊の中には私と同じ聖女もいるみたいだった。

 傷を負った隊員を治療し、感謝の言葉を受け取っている。


 あれが当初の私がなりたかった姿だ。

 何がどう間違ってゴブリンになってしまったんだ。

 本当にどうしてこうなってしまったんだマジで。


「前方に目標地点発見!」


 しばらく歩いていると、空を飛んでいた聖歌隊が声を張った。

 魔屍画の真ん中まで到達したみたいだ。

 今までの経験上、この先はとんでもない悪魔が待ち構えている。


 お姉ちゃん含め、聖歌隊の被害はほとんどない。

 軽傷を負った人はいるみたいだけど、聖女の力で回復も済んだみたいだ。

 千晴さんたちは当然元気いっぱい。だけど、無駄口は叩かなかった。


 皆も、この先が危険区域だというのは十二分に分かっている。

 私も気を引き締め、前へと足をすすめる。

 倒壊したビルを乗り越えると、その先にはドーム状の何かがあった。

 

 ビルの残骸を寄せ集めて造られた巨大な巣だった。

 聖歌隊の人が出したソナーに、小さな黒い点が映し出される。

 だけど、奥まった部分にとどまって出てくる気配がない。


「よし、総員配置につけ!」


 お姉ちゃんの号令で、聖歌隊は一斉に行動を開始した。

 聖女とその護衛は後方に下がり、地上と空中に部隊が揃う。

 各々、青白い光を放つ刀剣や銃などを装備し、巣に向けて構えた。


 そのなかから数人が、例の悪魔を呼び寄せる機械を持ってきた。

 巣穴の前に設置するのを、私は遠巻きに眺めていた。

 あんなに近づいてしまって、大丈夫なのだろうかとハラハラする。


「配置完了!」


 お姉ちゃんの通信機からそう声が聞こえ、設置していた人たちも配置に戻った。

 少し待つとアタッシュケースのような機械が、ひとりでに開いた。

 開いた部分がゆるやかに上下し、なにかきらきらしたものを散布している。

 その姿は、花開いた鉄製の花弁が、花粉を振りまいているようにも見えた。


「……動きあり!」


 誰かの言葉と同時に、ソナーの黒点がゆっくりと地上に向けて動き始めた。

 10秒も待たずに、巣の入り口と思われる大穴から、魔屍画の長が姿を現した。

 その悪魔は動じる様子もなく、のっそりと体を上げて私たちを見下ろした。


 それは三つ首六つ目の、禍々しい大蛇だった。

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