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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~魍魎千蛇・跋扈~ 編
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聖歌隊+悪魔憑き

「よし皆、聞いてくれ!」


 お姉ちゃんが声をあげると、聖歌隊の人たちが姿勢を正した。

 四、五十人はいそうな聖歌隊がお姉ちゃんの言葉を黙って聞いている。

 お姉ちゃんもすごい人なんだということを、目の前の光景で実感した。


「――そして、今回こちらの六名に協力していただく」 


 聖歌隊の視線が私たちに一斉に集まる。

 私なんかは体を強張らせてしまったけど、皆は何でもないようにしている。

 なんか余計に恥ずかしい。


「私たちは数に入ってないの?」

「ちゃんとお手伝いするのよ?」

「……んむぅ」

「まあまあ、そこはルディさんと一心同体ということで」


 むくれる狼少女たちは、私の一言で満面の笑みになった。


「すでに聞き及んでいるだろうが、彼らは悪魔憑きだ。だが、今までの魔屍画の解放に多大なる貢献をしてくれている。今回は彼女らと協力して任務にあたる!」


 悪魔憑き、という言葉が出て僅かに空気が張り詰めた。

 それはそうだろう。今まで戦ってきた相手と同族が目の前にいるのだから。

 ああどうしよう、この場で殺してしまえみたいな展開になったら。

 

 私のネガティブな考えは杞憂だったようで、何も言われることもなかった。

 少し渋い顔をしている人は居たけど、すぐに表情を元に戻していた。

お姉ちゃんの「質問は?」という問いかけにも、誰も反応はなかった。


「それでは作戦通り、魔屍画の排除に向かう!」


 お姉ちゃんの号令と共に、聖歌隊の人たちは足をそろえて背筋を伸ばした。

 それから規律だった動きで陣形を組み、順番に前進していく。

 対照的に、私たちは陣形の中ほどをゆるゆると歩いていた。


「おうおう、流石聖歌隊様だねえ」

「流石の規律と言ったところかな」


 千晴さんとルディさんは観光でもしているかのように悠々と歩いている。

 その横でルルちゃんたち三人が、きびきびと手を振って歩いている。

 聖歌隊の真似っこかな。かわいい。


「……きらり、大丈夫?」

「あはは~☆ ダイジョブだよ~☆」


 花牙爪さんは肩車したきらりさんに声をかける。

 きらりさんはスマホをあちこちに向けて聖歌隊を写真に収めている。

 うん、大丈夫そうかな。


「これだけいると心強いですね」

「それはどうだか、この戦力じゃ全力じゃないしな」

「え、だって……ってなんですかそれ」


 隣にいたハカセに声をかけると僅かに宙に浮いていた。

 地面から離れたハカセはそのまますいすいと動いて見せる。


「ホバーブーツだ、お前さんたちが集めた魔素でつくった」

「集めた魔素を無駄遣いしないでくださいよ」

「これのどこが無駄遣いだ! 中に浮く靴はロマンだろう」

「……それはいいとして、さっきの話は?」

「聖歌隊の最高戦力が出張ってないからな」

「最高戦力?」


 私が首をかしげると、ちょうどいいタイミングでお姉ちゃんがやってきた。


「やあどうも、ところで『四聖天女』はどうしたんだ」

「あの方々はお忙しい、だから私が変わりに指揮をとっている」

「忙しいったって魔屍画の解放以上に重要な任務なんてあるのかね」

「関西と九州で大規模な悪魔の動きがあった。その鎮圧に向かわれた」

「四人全員で?」

「お二方だけだ。あとは本部の指揮と解放した魔屍画の浄化だ」

「これで戦力はが足りるのかい、ずいぶん見通しが甘いんじゃないか」

「そのために貴殿らを呼んだのだ。ここで活躍すれば更なる地位の……」

「あ、あの~……」


 二人の会話に割りこむように、私は手をあげた。


「しせいてんにょ? っていうのは……」

「ああ、まだ説明してなかったね」

「聖歌隊様の最高戦力、よくある四天王的なアレさ」


 ああ、なるほど?

 とにかく聖歌隊の中でも強い人たちってことかな。

 それなら確かに、今日来ていないのは気になる。


「地方に我々のような組織は数あれど、どれも五十歩百歩だ。だから四聖天女様は日々全国を飛び回っておられる。いつお休みされいるかもわからん」


 私の疑問に答えるように言ったお姉ちゃんの顔は、どこか誇らしげだった。

 そうか、きっとその四聖天女はお姉ちゃんの憧れなんだ。

 お姉ちゃんのこんな顔を見たのは初めてで、新鮮だった。


「実は、ここの魔屍画は聖歌隊で何度か制圧に訪れたんだ。だが、悪魔の反応はあれど姿を見せるのは下級の悪魔や、悪魔憑き……訂正する、『正気を失った悪魔憑き』ばかりで大本を叩くことはできなかった」


 それで悪魔を呼び寄せる装置を持ってきたということなのか。


「これも効果があるかは分からない。だから多忙な四聖天女様は呼べなかった」 

「ずいぶん薄情だねえ、出てきて処理しきれなかったらどうすんだ」

「いつまでも天女様にばかり頼ってはいられない。だから今日は我々だけで行う」

「強気だねえ、経験上魔屍画に行くにはもっと――」


 不意に地面が揺れ、ハカセは口を閉じた。

 地震とは違った、地中から何かがこちらに向かってくるような揺れ。

 一瞬でお姉ちゃんの顔が冷静に引き締まり、


「反応は!」

「地中から二体! 挟まれます!」


 聖歌隊の誰かの言葉通り、前後の廃屋が揺れ動き、地中から悪魔が姿を現した。

 盛り上がった地面から廃ビルや廃墟が崩れ落ち、がれきや木片に姿を変えた。

 現れたのは、見上げるほどの巨躯の悪魔が二体。


 一体は、人間の皮を引き剥がして胸まで口を押し広げたような姿。

 一体は、人間に無理やり魚を混ぜ合わせてできたたような姿

 どちらも目を逸らしたくなるほど醜悪で歪な異形だった。


 その咆哮もまた、全身を粟立たせるのに十分だった。

 喉から絞り出したような人間の怒号をひねり上げたような声。

 汚水から沸き立つ泡を寄せ集め、人間の悲鳴を合わせたような声。


 私なんかはもう叫び出したいほどだった。


「うひぁああああ!!???」


 というか叫んでた。

 お姉ちゃんは私を隠すように手を広げて叫んだ。


「総員、戦闘た――」


 だけどその声は途中で途切れた。

 目の前に立ちふさがっていた皮剥ぎ悪魔の頭に大きな風穴が空いたからだ。

 頭だけでなく、人間でいうみぞおちを腹部にまで大きな穴が開いていた。


 ふと見れば、千晴さんとルディさんが銃を構えて立っていた。

 当然、ルルちゃんたちの姿は銃へと変貌していた。

 ルディさんは銃身を下げると千晴さんの肩を叩き、


「残念、私の勝ちだね」

「馬鹿よく見ろ私の弾で殺した後にお前のが当たったんだ」

「負け惜しみは美しくないよ」

「ああ!?」


 子供のような喧嘩をする二人越しに見えた巨大な魚の悪魔。


 その悪魔も、三枚におろすように切り裂かれた。

 切り口からウジ虫のような悪魔が無数に飛び出すが、地面に着くことは無かった。

 飛び出すと同時にその全てが瞬時に溶かされ、粘液となって悪魔の足元に降り注いだ。


「……これ、食べられるかな」

「あはは~☆ 寄生虫が心配だからよく火を通そうね~☆」 


 へらへらと笑う二人に、喧嘩を続ける二人。

 四人を中心に、聖歌隊の人たちが固まっている。

 圧倒的な力に身動きできないでいるようだった。


「……まあ、戦力はウチらが補えばいいか」


 宙に浮いたまま、ハカセがぽつりと呟いた。


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