ひとつの家族
聖歌隊の保護区域の中に、そのきょうだいはいた。
十を超えるきょうだい達を、一番年上の姉が世話をしている。
わいわいと騒がしい弟、妹たちを相手に、彼女は笑顔を崩さない。
彼女は――いろはは家族と出かけていた。
先日、きらりが来た時に取り乱したせいで職場の同僚に心配された。
有休も消化しなければならなかったので、休暇を取ったのだった。
もっとも、家族を連れての外出は疲労がたまるものだった。
だが、彼女はそれでよかった。
姉のきらりの分まで、自分が彼らを幸せにしなければならない。
それが、彼女が最大限できる償いだった。
「お姉ちゃん、今日はどこいくのー?」
双子の妹が声をそろえてそう言うと、いろはは笑って、
「そうね、たまには外に行きましょうか」
聖歌隊の保護区は主に住宅や教育施設で構成されている。
娯楽施設は保護区の外に設置され、住宅地よりも幾分警護が薄い。
それでも普通の街よりも安全だが、安全が保障された区画から出る事には変わりない。
普段のいろはなら外に出るという選択はしなかっただろう。
双子の妹も、「大丈夫なの?」といろはに尋ねた。
だが彼女は、「そんなに遠くには行かないから」と笑顔を見せた。
自分が拒絶したせいで行方知れずとなっていた姉が生きていた。
姉自身には追い出されてしまったが、自分の行いを考えれば仕方がない。
ただ姉が生きてくれていた。その事実が、いろはの心を軽くしていた。
だから彼女は、喜びを胸に抱えて家族と共に保護区から離れた。
その感情が、何を呼び寄せるかも知らずに。