卓球戦争
「はぁ~……っと」
私は満腹な幸福感に包まれながら、ふかふかの布団に横になった。
夕ご飯も豪華で美味しくて、もう大満足だ。
花牙爪さんは足りなかったようで、蛙田さんと一緒にラーメンを食べに行ってるけど。
露天風呂から千晴さんのご機嫌な鼻歌が聞こえる。
温水プールからはルディさんとルルちゃんたちが水鉄砲で遊んでいる声が。
ハカセは和風なソファーに座り、いつもの様にコーヒーを啜っている。
そして私は布団に寝ころび、ぼんやりと天井を見上げている。
うーんなんとも幸せな時間だ。
悪魔と戦っている事なんて忘れそうなくらい平穏な時間が流れていく。
うだうだとスマホをいじったりしていると、千晴さんがお風呂から上がってきた。
ルディさんたちも部屋に戻って来たので、私も体を起こすと、玄関から物音が。
蛙田さんたちが帰って来たみたいだ。
「あはは~☆ 卓球台借りられるみたいだよ~☆」
部屋に入って来るやいなや、蛙田さんが口を開いた。
「いいじゃん! やろうぜ!」
「わーい私もやりたいの!!」
「あはは~☆ いこいこ~☆」
「ああ、行って来な」
ハカセの言葉に私たちは彼女の顔を見た。
ここに来る前もこんなことしたな。
「えー行きましょうよ~」
「体動かすのは好きじゃない。お前さんたちだけで……」
「軽いお遊びじゃないかハカセ、なあロロ?」
「そうそう! 皆で楽しみましょうよ!!」
「いや、私は……」
「なんだよハカセ負けるのが怖いか?」
千晴さんの言葉にハカセは手にしたカップを机に置いた。
そのまま黙って立ち上がると、首をごきりと鳴らして千晴さんを睨みつけ、
「……いいだろう、ギタギタにしてやるよ」
そう吐き捨ててどすどすと部屋を出て行った。
「結構簡単ですね」
「……単純明快」
私は聞こえてきたハカセの「何か言ったか?」の声に「なんでもないです」と返した。
◆
遊興スペースにはありすぎなんじゃないかってくらい色々なものがあった。
卓球台、ビリヤード台、クレーンゲーム、囲碁将棋、各種カードゲーム……
ここにあるもの全部やろうとしたら一日じゃ足りないだろう。
「オラ死ねえ!!」
「お前が死ねぇ!!」
でも、私たちはひたすらに卓球をしていた。
物騒な言葉が飛び交っていますが、卓球をしているんです。
信じてください。
千晴さんとハカセが白熱しすぎて口が荒み散らかしている。
隣で仲睦まじく球を打ち合ってるルルちゃんたちと花牙爪さんがとの落差がすごい。
蛙田さんとルディさんがいない。あ、クレーンゲームの方に居た。
「オンダラッ、シャイ!!!!」
「ンダラッ……ショイ!!!!」
もはや意味不明な奇声になっている。
ていうか誰も点数数えてないんじゃないか?
千晴さんのスマッシュで弾が三つに割れたところで指摘する。
「え、ああ……確かに」
「なんだ真理矢、お前さん数えてくれなかったのか」
「あまりにも気迫がすごくて忘れてました」
「そうか……ああ疲れた、やはり運動は嫌いだ」
「なんだよもう終わりかよ!」
千晴さんが挑発するように言ったけれど、ハカセは手を振って答えるだけだった。
そのまま壁際のベンチにぐんにゃりと座り込んでしまった。
「おいオオカミっ子たち、こっちきてやろうぜ」
「ちはる怖いからいやなの」
「私たちはまったり楽しみたいのよ」
「……むり」
一斉に断られ、千晴さんは唇を尖らせた。
「仕方ねえな……おい真理矢、軽く相手しろよ」
「え、いいんですか?」
「仕方ねえだろ、お前しかいないんだから」
「いえ、そうではなく……負けても知りませんよ?」
「なんだと?」
眉を持ち上げる千晴さんの前で、私は手にしたラケットをくるりと回して見せた。
くるくるとラケットを回しながら新しい球を手に乗せ、ゆるりと構えた。
「私は小学校の時卓球クラブだったんですよ?」
「ほほう……」
「ピンポン程度の実力の千晴さんに負ける気はしませんね!!」
「いいじゃねえか全力で来い!!」
私は球を高く投げ上げ、手首のスナップを利かせて打ち出した。
打ち返された球をドライブで返し、少しでも隙があればスマッシュを撃ち込む。
相手が攻めてくれば素早く下がり、勢いが落ちた頃で回転をかけて相手に返す。
私は経験者のテクニックを発揮し、千晴さんを翻弄した。
球は次々にネットに阻まれ、背後へとすり抜けていく。
瞬く間に点数が積み上がり、あっけなく勝負は決した。
11-4で負けた。