旅館到着
「は~! 着いた~!!」
ハカセのバンで移動すること2時間弱、ようやく温泉宿に着いた。
想像よりも大きな旅館が前方に見え、私たちは思わず「お~」と声を挙げた。
皆口々に期待の言葉を口にしながら、バンを降りた。
「んじゃ、手続するから待ってな」
ハカセの言葉に「はーい」と返事をして荷物を持って待機する。
私を含めて、皆そわそわと浮足立ってしまっている。
だけど、あまりはしゃぎすぎるのはよくないだろう。
ハカセが今話しているのは聖歌隊の人間だ。
聖歌隊の人が皆が皆お姉ちゃんみたいに私たちを認めているわけじゃない。
何か騒ぎを起こせば捕まえられることも考えられる。
……この人たちを捕まえられるなら、だけど。
まあ、この人たちは所かまわず暴れる人たちじゃない。
悪魔と言っても皆良い人だ。それは私が一番よく知ってる。
よけいな心配はせずに、前方の旅館に視線を向ける。
今くぐってきた聖歌隊の西洋風なアーチ状の門とは打って変わって和風な外観だ。
四階か五階建てだろうか、五重塔か何かを太くしたような見た目だ。
とはいえ、不格好ではなく豪華絢爛といった見た目だ。
入口には大きな橋が架かっていて、大きな扉の上には木板で『聖歌庵』の文字が。
若干語呂が悪い気もするがまあどうでもいい。
……なんかこれと似たのを見たことあるな。
なんだろう、昔なにかで見たような。
かなりメジャーな作品だったと思うんだけど。
あ、分かった。千とちひ――。
「待たせたな、行こうか」
色々と危ないところでハカセが戻って来たので、大きな橋に向かう。
うん、危なかったな。
何が危なかったかはよく分からないけど。
「ていうか今更だけどよ、こんだけ郊外で悪魔は大丈夫なのかよ」
「ここは聖歌隊の地方支部の真ん中に建ってる。だから並みの悪魔じゃ近寄れもしない」
「それなら安心、ってわけですか」
「ああ、ただ支部を作るだけじゃなくバカでかい旅館建てて金儲けもってことだな」
「あはは~☆ あの人らしいね~☆」
「……一石二鳥」
「我々が魔屍画を封じたことで悪魔の活動が抑えられているのもあるけどな」
ゴロゴロとキャリーバックを引きながら話しているうちに、旅館の入口についた。
仰々しく迎えられ、中に入ると吹き抜けのロビーが目の前に広がった。
今まで見たこともない高級感に私はまた吐息を漏らした。
「それでは、えー……ハカセ様、ご案内します」
あちこちに視線を奪われながらガラス張りのエレベーターに案内される。
吹き抜けをどんどん上って行き、最上階で止まった。
一層豪華になった内装に気おされながら、部屋まで案内してもらった。
「うおすっげえ! プールだプール!!」
「これはいいベッドだ」
「あはは~☆ 露天風呂も広~い☆」
「……お菓子うま」
入るや否や大騒ぎし始めた皆に旅館の人は苦笑いだ。
とか言ってる私も騒ぎたくてうずうずしている。
プライベートプールとかセレブじゃん、ハリウッドじゃん。意味わからないじゃん。
ハカセと一緒に館内の説明を受けるけど、私の耳にはほとんど何も入って来ない。
あーずるいずるい私も早く大はしゃぎしたい。でも人目を気にしてできない。
これが悲しき日本人の性。
「――それでは、ごゆっくり」
ようやく日本人の束縛から解放された私は、荷物を放り出して駆け出した。
ありとあらゆる引き出しや襖、クローゼットを開けまくる。
広々した洗面所に飛び込みアメニティを意味もなく確認する。
ルルちゃんたちがじゃれてるベッドに飛び込み、両腕を振り上げる。
「よっしゃあ癒されるぞ~~~~!!」
私は(常識の範囲内の)大声で叫び、ガバッと起き上がった。
「入りましょう!」
「よっしゃあ行くぞ!!」
私たちは光の速さで全裸になり、湯気の立つ温水プールに飛び込んだ。
どぼんという水音と共に、ちょうどいい温度の湯に包まれ、そのままお尻を強打した。
意外と浅かった。