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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~悪魔狩りの一族~ 編
121/208

気配

 ヴァルカンは血に濡れた体のまま、まっすぐに歩いていた。

 魔の槍に貫かれた傷は、既に塞がりつつあった。

 そんな彼の後ろを、妹が付いて来ている。


「よかったわ~ルディちゃんと仲直り出来て~」

「……」

「私は殺し合いなんて嫌だったから、とっても嬉しいわ~」

「…………」

「ヴァル兄様? 怒ってるの~?」

「いや、少し気にかかることがあってな……」


 ミナーヴァが首をかしげて「なあに?」と尋ねるが、ヴァルカンは答えなかった。


「お兄様、一人で考え込むのは駄目よ~」

「……お前、変わったな」

「お兄様こそ~」


 おっとりと笑うミナーヴァに、ヴァルカンの表情が僅かに緩んだ。


「ルディたちの家で感じた『悪魔』の気配……それがなんなのか分からん」

「あの子のお友達のことじゃないの~?」

「……あのゴブリンか」


 確かに、気圧されたのは初めての経験であった。

 今後、あの娘は強大な力を持っているかもしれない。

 ヴァルカンですらそう思うほどの鬼気を、真理矢から感じたのは確かだ。


 だが、ヴァルカンが感じていた気配とは違った。

 真理矢のものは分かりやすい、敵意、覇気、そんな言葉で表せる『強い』気配。

 ヴァルカンが真理矢たちの家で感じたものとは種類が違う。


 あの時感じた気配は、形容しがたいものだった。

 嫌悪、後悔、罪悪、苦悩。そういったある種の『弱い』気配。

それらを煮詰めに煮詰め、どうにか揮発させて無くそうとしたその残滓。


 そんな不気味で黒い感情が、ルディたちの家のどこからか湧き出ていた。

 手を合わせ、言葉を交わしたが、彼女たちの誰からもそんな気配は感じなかった。

 だとしたら、あそこに居た五人以外の誰かか――。


「……お兄様?」


 覗き込んできたミナーヴァの顔を見て、ヴァルカンは我に返った。

 ここでうだうだと考えていても仕方がない。

 それに、もし何かが居るとしても、それはルディたちの問題だ。


 もう、妹の人生に干渉するつもりはない。


「いや、なんでもない」

「そう……わからないことを考えていても仕方が無いものね~」

「そうだな」

「そうだ、せっかくだからニホンのお菓子食べましょ~。お兄様甘いの好きよね~」

「……傷が治ったらな」

「あら~オオバンヤキですって~」

「オオバン……?」

「甘い餡を生地で包んだ和菓子みたいね~」

「……帰りがけに買うか」

「……お兄様血まみれだから、私が買うわね~」


 聖歌隊の本部に戻る頃には、二人の両手は買い物袋で塞がっていた。


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