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聖女ゴブリン 今日も嘆く  作者: 海光蛸八
魔屍画~悪魔狩りの一族~ 編
119/208

我が牙で眠れ

 巨大な悪魔の攻撃を、皆で迎撃する。


 千晴さんが刀を振るい、火の斬撃を飛ばし、悪魔の槍を払いのける。

 蛙田さんが様々な道具をスマホから呼び出し、ルディさんを守る。

 花牙爪さんが爪を伸ばし牙を飛ばし、悪魔に防戦を強いる。

 ルディさんが銃撃を行いながら、悪魔に向けて突っ込んでいく。


Lama(音無)silen(しの)ziosa()……」


 そしてミナーヴァが飛び回り、細かい斬撃を悪魔に入れる。

 時折彼女が、面へ攻撃を加えると、悪魔は露骨に嫌がるそぶりを見せる。


「やっぱりここが嫌みたいね~!」


 ミナーヴァが大声でそう言った瞬間、悪魔の姿が消えた。

 悪魔がいたところのコンクリートがめくり上がり、宙に浮いた。

 そうだ、この悪魔は突進力、瞬発力もすさまじい。


「クソ! この速さがあったか!」

「残念~☆ そこは……」


 悪魔が足をついたビルの側面から、粘液のようなものが噴き出す。

 おそらく蛙田さんが仕掛けたトラップだろう。そんなことできたんだ。

 脚が溶けたのか煙が上がり、悪魔は唸り声をあげて地表に戻った。


「……そこも」


 花牙爪さんは悪魔が降りた場所のコンクリートにぐるりと傷をつけていた。

 めちゃくちゃに引きはがされ、ぐずぐずになった地盤は悪魔の重みに耐えられない。

 落とし穴にはまるように悪魔は下半身を地面に埋めた。


「逃がさない~☆」


 蛙田さんはスマホをいじり、小さな砲台のようなものをいくつも地面に設置する。

 そのひとつひとつから縄の付いた銛のようなものが射出され、悪魔の体に突き刺さる。

 悪魔が穴から出ようともがくが、縄のようなものがピンと張り、それを許さない。

 

「ギィイイイイィィィィィイイイイイイ!!!」


 体を固定された悪魔は、金属をひっかいたような耳障りな声で絶叫した。

 道化衣装から伸びる槍が更にその数を増し、皆に襲い掛かる。

 私はその様子を遠巻きに眺める事しかできない。


「……」 


 隣で立っているヴァルカンに目を向けた。

 私に対する殺意はすでになく、今は黙って目の前の光景を見つめていた。

 ちょうどその視線は、悪魔に向けて駆けるルディさんを見ていた。


 彼女の背を見るヴァルカンの顔に、初めて人間らしさが滲んでいるように見えた。

 何かを迷っているような、そんな顔色。

 もしかしたら、彼も力になってくれるかもしれない。


「一緒に戦ってくれませんか」

「悪魔憑きと一緒にか」

「今、見えてるでしょう。ルディさんたちは人を傷つける悪魔憑きじゃない」

「……そうは言いきれん」

「見えているはずです。今、ルディさんが何をしているのか」

「……」

「何故ルディさんがあんなに必死になって戦っていると思いますか」

「自分は悪魔と戦えると証明するために……」

「それだけではないんですよ。ルディさんは、誰かのために戦える人なんです」

「……」

「誰かのために傷つき、戦える人なんです。貴方たちと何が違うんですか」

「今はいいが後々どうなるか。いずれ人を襲うようになっては取り返しが……」

「見てあげてください、ルディさんの今を!」

「…………」

「信じてあげてください! 助けてあげてください!!」

「そんなことは……」

「貴方は、ルディさんのたった一人のお兄さんじゃないですか!! 家族じゃないですか!!」

「我々は家族という言葉では……」

「今からでもいいんです! 家族になれば!! 愛し合って、助け合って、そんな――」


 何かが砕けるような音に、私の言葉は遮られた。

 悪魔の方を見ると、ルディさんがその拳を悪魔に向けて撃ち降ろしていた。

 悪魔の面にひびが入り、何か赤黒く光るものが、私たちの位置からでも見えた。


「あそこが弱点……!」


 だけど、ルディさんの一撃は面を欠けさせただけで、致命傷には至らなかった。

 僅かに欠けた面の下から肉の触手のようなものが飛び出し、ルディさんを縛り付ける。

 咄嗟に銃で反撃しようとしたルディさんを、触手が締め上げる。


「ヤバいぞ助けろ!!」


 千晴さんが叫び、皆もそれに応えるが、悪魔は槍での攻撃を強める。

 受けるのが精いっぱいで、皆ルディさんを助けに行く余裕はない。

 ルディさんの体を締め付ける力が強まり、ルディさんの苦悶の声が響く。


 このままじゃルディさんが殺される。

 何ができるわけでも無いけど、何かしなくちゃ。

 私はいつもの様に、無鉄砲に走り出した。


 大柄な何かが、私を追い抜いた。


「ヴァルカン、さん!!」

「お前ら援護しろ!!」


 低く放たれた言葉に、千晴さんたちは従った。

 彼の行く手を阻むものを排除し、ルディさんまでの道を切り開く。

 ヴァルカンは飛び上がり、熱を持った大槌を振りかぶり、 


Martello(裁き) del() giudizio(鉄槌)!!」


 叫び声と共に大槌を悪魔の面に向けて振り下ろした。

 爆音と共に、面は粉々に砕け散り、悪魔が絶叫する。

 そして、ヴァルカンに狙いを定めて無数の槍を突き出す。


 皆の援護は間に合わず、ヴァルカンは悪魔の槍をその身に受けた。

 迎撃しきれなかった数本の槍が体を貫き、全身から血が噴き出た。

 血と共に落下しながら、ヴァルカンはルディさんに向けて大きく口を開き、


「やれ! ルディ!!」

「兄様……!」


 ルディさんは落ちていくヴァルカンを見て小さく呟くいた。

 静かに、その顔を赤黒く光る弱点に向けた。

 押さえつけ、下を向いていた銃口がぎりぎりと持ち上がって行く。


 首や腕、脚や体を触手に締め付けられながらも、ルディさんの姿勢は微塵もぶれない。

 静かにまっすぐに立ち、銃口をその光る物体に向けている。

 肉と骨が締め上げられる音に、小さな引き金の音が混じる。


 銃声が鳴り響き、一瞬の静寂。


 悪魔は断末魔の叫び声を挙げ、苦痛に体をよじったが、すぐに全身の力が抜けた。

 そのまま頭から地面に倒れ伏す轟音の後、頭の天辺から灰となって崩れていく。

 崩れ去って行く巨躯の悪魔を背に、ルディさんは深く息を吸い込み、


In bocca(我が牙)al lupo(で眠れ)……」


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