浅い人
瓦礫が崩れる音が収まり、土埃が晴れても二人は姿を見せない。
そんなふたりの無事を確認する暇もなく、ヴァルカンが口を開く。
「弱いな……我が妹ながら情けない。いや、悪魔に魂を売ったのだから当然か」
ヴァルカンは私の前に立ち、身動きできない私を見下ろした。
「お前は『聖女』らしいな。お前の血肉で悪魔の力が覚醒するのだとか……興味深い。我が国にも聖女と呼ばれる人間は居るが、あくまで象徴的なものだ。その血肉で力を得たりはしない」
「……なにが、言いたいんですか」
「我らに協力するのならば、お前は生かしておいてもいい。我らが力を更に高め、より多くの民草を救済する。その力になれば、お前は生かしてやる」
「……王狼さんたちは?」
「オウガミ……ルディのことか。悪いが悪魔を見過ごすわけには――」
「だったらお断りです」
私はヴァルカンの言葉を遮り、そのままゴブリンの姿になった。
禿げあがった緑の頭、骨ばった手足に歪んだ牙。
私は、悪魔の姿になった。
「醜い姿だ。とても聖女には見えん」
「貴方みたいに浅い人にはそう見えるでしょうね」
「……何?」
ゴブリンになったことで、私とヴァルカンには更に身長差が広がり、目の前の大男はまるで壁の様だった。威圧感はそのままどころか、むしろ増しているのに、不思議と私はまっすぐに立っていられた。
「私は醜い悪魔ですよ。でもお料理も好きだし、ガーデニングもお掃除も大好きなんです」
「何の話だ」
「醜い悪魔の中にも、そうやって好きな事をしたいと思っている人が居るんですよ。普通の人間みたいに暮らしたいって思ってる悪魔が居るんです。それなのに、ただ悪魔だから、それだけで狩るだなんて……浅いと思いませんか」
私が一息にそう言うと、ヴァルカンは小さく息を吐いた。
「何故お前は悪魔に与する? 聖歌隊という組織があろう。何故こいつらにこだわる」
「この人たちが私を救ってくれらからです。私が立ちあがるのを助けてくれたからです」
「それはお前が聖女だからだろう。お前を利用するため――」
「そうかもしれませんね。……ああ、今の貴方と一緒だ」
ゴブリンの長い鼻かすめて、大槌がコンクリートを打ち砕く。轟音と衝撃に体が強張ったけれど、視線はヴァルカンから外さなかった。
「お前が『聖女』だという事を信じるならば、殺す必要はない。だが、これ以上悪魔どもを庇い、我らを愚弄するというのならば、お前への処遇は変わらんぞ。」
「悪魔だろうが人間だろうが、聖女だろうが、そんなのはどうでもいいんですよ。私はもう大切な人を失いたくないんです。私の大切な人を傷つける奴は――」
脳天に衝撃、それから脳みそが揺さぶられるような不快感。景色が下にぶれたかと思ったらすぐ目の前に地面。ふわりと体が浮くような感覚の直後に地面に頭が叩きつけられた。殴られた、と分かったと同時に痛みが襲ってくる。
「……ッ!」
「Martello del giudizio……」